歴史人口学者・家族人類学者 エマニュエル・トッドさん(右)Emmanuel Todd 1951年、フランス生まれ。家族構造や人口動態などのデータで社会を分析、ソ連崩壊などを予見。近著に『トッド人類史入門 西洋の没落』/ジャーナリスト・池上 彰さん(いけがみ・あきら) 1950年、長野県生まれ。名城大学教授、東京工業大学特命教授。主な著書に『池上彰の「世界そこからですか!?」』など
歴史人口学者・家族人類学者 エマニュエル・トッドさん(右)Emmanuel Todd 1951年、フランス生まれ。家族構造や人口動態などのデータで社会を分析、ソ連崩壊などを予見。近著に『トッド人類史入門 西洋の没落』/ジャーナリスト・池上 彰さん(いけがみ・あきら) 1950年、長野県生まれ。名城大学教授、東京工業大学特命教授。主な著書に『池上彰の「世界そこからですか!?」』など

 ウクライナ戦争の終わりが見えない。各国の思惑も絡むなか、注目すべきは「アメリカの凋落」だと指摘する歴史人口学者のエマニュエル・トッドさんと、ジャーナリストの池上彰さんが語り合った。AERA 2023年6月19日号の記事を紹介する。

【図版】上位15カ国の軍事費の推移はこちら

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 ウクライナ戦争が始まって1年3カ月余。ゼレンスキー大統領が「反転攻勢」の開始に言及するなど、依然として出口は見えない。

 ロシアを抑え、軍事費で世界1位と2位は、アメリカと中国だ。その中国はなぜ、このところウクライナ戦争に仲介の動きを見せているのだろうか。エマニュエル・トッドさんと池上彰さんは13日に『問題はロシアより、むしろアメリカだ』(朝日新書)を出版する。ウクライナ戦争を「終わらない戦争」とみる2人の対談内容を本誌で緊急報告する。

池上:中国の習近平国家主席が2023年3月20日にロシアを訪問して、プーチン大統領と会いました。この動きを、どのようにご覧になっていますか。

トッド:ロシアがこのウクライナ戦争を経て理解してきたことというのは、ウクライナが軍事面において、ひじょうにNATOに支えられているという現実です。

 そしてロシアは、戦争経済という段階に入っていったわけなんですけれども、この戦争はもう消耗戦と呼べるものになってきていて、つまり、たくさんの兵士が亡くなったりしているわけです。また資源面においても、たとえば軍事品、大砲などそういったものがひじょうに重要になってくるわけです。そして、大事なのはこの分野において、ロシア側も西洋側も、西洋の弱さ、とくに「アメリカの弱さ」というものに気がつき始めているということです。

 そして、アメリカのその生産面における弱さに対して、いま、「中国の参加」ということが明らかになってきたわけです。

■米が負ける可能性

 グローバル化した世界のなかで、例えば工作機械の分野では、中国は約30%を占めています。一方で、日本は約15%、ドイツもだいたい同じ約15%。イタリア、アメリカに至っては7%、8%なんですね。

 要するに、これは仮説ですけれども、アメリカやNATOの国々が負けるという可能性も、そこには見えてくるわけです。

 そして、中国の態度ですけれども、中国はこのウクライナ戦争が始まった時点から、常にロシアを支えるような立場であったわけです。というのも、ロシアが負けてしまえば、アメリカは次は中国を攻撃するだろうということが、中国にはわかっていたので、ロシアを支えるというような立場にいたわけです。

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