ウクライナ戦争の終わりが見えない。各国の思惑も絡むなか、注目すべきは「アメリカの凋落」だと指摘する歴史人口学者のエマニュエル・トッドさんと、ジャーナリストの池上彰さんが語り合った。AERA 2023年6月19日号の記事を紹介する。
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ウクライナ戦争が始まって1年3カ月余。ゼレンスキー大統領が「反転攻勢」の開始に言及するなど、依然として出口は見えない。
ロシアを抑え、軍事費で世界1位と2位は、アメリカと中国だ。その中国はなぜ、このところウクライナ戦争に仲介の動きを見せているのだろうか。エマニュエル・トッドさんと池上彰さんは13日に『問題はロシアより、むしろアメリカだ』(朝日新書)を出版する。ウクライナ戦争を「終わらない戦争」とみる2人の対談内容を本誌で緊急報告する。
池上:中国の習近平国家主席が2023年3月20日にロシアを訪問して、プーチン大統領と会いました。この動きを、どのようにご覧になっていますか。
トッド:ロシアがこのウクライナ戦争を経て理解してきたことというのは、ウクライナが軍事面において、ひじょうにNATOに支えられているという現実です。
そしてロシアは、戦争経済という段階に入っていったわけなんですけれども、この戦争はもう消耗戦と呼べるものになってきていて、つまり、たくさんの兵士が亡くなったりしているわけです。また資源面においても、たとえば軍事品、大砲などそういったものがひじょうに重要になってくるわけです。そして、大事なのはこの分野において、ロシア側も西洋側も、西洋の弱さ、とくに「アメリカの弱さ」というものに気がつき始めているということです。
そして、アメリカのその生産面における弱さに対して、いま、「中国の参加」ということが明らかになってきたわけです。
■米が負ける可能性
グローバル化した世界のなかで、例えば工作機械の分野では、中国は約30%を占めています。一方で、日本は約15%、ドイツもだいたい同じ約15%。イタリア、アメリカに至っては7%、8%なんですね。
要するに、これは仮説ですけれども、アメリカやNATOの国々が負けるという可能性も、そこには見えてくるわけです。
そして、中国の態度ですけれども、中国はこのウクライナ戦争が始まった時点から、常にロシアを支えるような立場であったわけです。というのも、ロシアが負けてしまえば、アメリカは次は中国を攻撃するだろうということが、中国にはわかっていたので、ロシアを支えるというような立場にいたわけです。