残酷な動物虐待動画を見て精神的苦痛を受けたとして、動画をネットに投稿した男を訴えている女性。「私たちの訴えが、動物虐待動画を規制するきっかけになってほしいと思います」(撮影/編集部・野村昌二)
残酷な動物虐待動画を見て精神的苦痛を受けたとして、動画をネットに投稿した男を訴えている女性。「私たちの訴えが、動物虐待動画を規制するきっかけになってほしいと思います」(撮影/編集部・野村昌二)

 犬やを虐待する動画の存在が問題になっている。動画を見て心に深い傷を負う人もいるが、投稿を規制する法律はない。動物虐待動画に対する法規制を求める声が高まっている。AERA 2023年6月5日号から。

【グラフ】警察が摘発した動物虐待事件数はこちら

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 あまりの非道な行為に目を背けた。

 2016年3月から翌17年4月にかけ、埼玉県の元税理士の50代の男が投稿したものとみられる動画だ。男は自ら猫を虐待する様子を撮影し、インターネットの匿名掲示板に投稿していた。17年8月、男は猫13匹を虐待し死傷させたとして動物愛護法違反容疑で警視庁に逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を受けた。だが、男が投稿した動画は拡散し、今もネット上に残る。

 犬や猫の動画は人気コンテンツのひとつだ。だが一方で、犬や猫を虐待する動画も存在し、問題となっている。

 今年3月には、猫の虐待動画をネット上に公開していた広島県の20代の男が、動物愛護法違反の疑いで逮捕された。

「無法地帯です」

 俳優で公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」理事長の杉本彩さんは、ネット空間における虐待動画について、そう指摘する。

 犬や猫などをみだりに殺したり傷つけたりした場合、動物愛護法によって5年以下の懲役又は500万円以下の罰金が科せられる。昨年1年間に全国の警察が動物を虐待したとして動物愛護法違反で摘発した事件は166件と、10年前の約6倍。166件のうち猫が91件、犬は53件で、犬猫で約9割を占める。だが、動画を撮影・投稿すること自体を規制する法律はない。文字通り「枠の外」だ。

「いくら削除されても、動画を動物虐待の愛好家がダウンロードし、コレクションとして持っていて、見たくない人の目にも触れさせるために掲示板に貼りつけることもあります。そもそも、一度アップされた映像をすべて削除するのは不可能です」(杉本さん)

 杉本さんによれば、虐待動画を投稿する年齢層は幅広く、中学生もいるという。投稿者の目的について杉本さんは、「快楽と承認欲求にある」と話す。

「同じような感覚を持っている、愛好家たちから承認されたいという承認欲求です。内容が残酷であればあるほど、愛好家の間で注目され、『カリスマ』のように扱われます。それが心地よく快楽につながり、動画の内容がさらにエスカレートしていくこともあります」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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