■ショックで眠れない日も、損害賠償を請求

 また、最近の研究では、普段体験できない生々しい体験をしてみたい、新しい刺激を求めたいという刺激希求性が強いかどうかということや、仮想空間でストレスを発散できるということが、暴力的コンテンツの好みと関係することも報告されていると話す。

「虐待動画の影響を受けるのは、その人の道徳性やパーソナリティー、家庭や学校環境などバックグラウンドによるところも大きいです。ただ、適切な規範意識や社会的経験が十分獲得されておらず、さまざまな問題でストレスを抱えている10代未満に影響しやすい傾向はあると思います」(渡辺教授)

 動物が苦痛を受けるシーンを見て、心に深い傷を負う人も少なくない。

「あの場面がフラッシュバックして、夜、眠れない時があります」

 東日本に住む女性はそう話す。

 自宅でを飼っている女性は数年前、ユーチューブで猫の動画を見ていると、関連動画として猫が虐待されている動画が上がってきた。冒頭の元税理士の男が投稿した動画だった。

 女性はショックで体調を崩し、仕事にも行けなくなった。精神科に行くと、抑うつ神経症と診断され、この動画を見たのが原因と考えられると言われた。

 今も女性は、猫が怯え、鳴き叫ぶ様子が頭から離れない。ユーチューブを見ることもできず、眠れない日もある。通院し、抗うつ剤を飲みながら暮らしているという。

 20年11月、女性は、元税理士の男が投稿した虐待動画を見て精神的苦痛を受けた女性計6人で、さいたま地裁に660万円の損害賠償を求め提訴した。女性は訴える。

「被告の男は、自分の欲求だけで虐待動画をアップし、その動画を見た人がどうなるかも考えていませんが、その神経が全く理解できません。私たち原告は意を決し表に出ましたが、日本全国に虐待動画を見たことで心を痛め、精神的苦痛を受けている人はいっぱいいると思います。私たちの訴えが、動物虐待動画や残虐な動画を規制するきっかけになってほしいと思っています」

 今年3月に開かれた本人尋問で被告の男は、原告らが閲覧したのは第三者が加工し、転載した動画だと説明。原告らの損害については「責任を取りかねる」と因果関係を否定した。

次のページ