新聞や雑誌の多くが、デジタル展開に注力するようになった。ウェブメディアが乱立するなか、読者に選ばれ続けるための競争は激化している。これからのメディアに不可欠なものは何か。メディアの未来を考えた。AERA 2023年5月29日号から。
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進むデジタル化。増えるウェブメディアに加えて、個人で多くの視聴者を集めることができるようになった時代に、持続可能なメディアとはどんなものなのだろうか。
それを考えた時、無視できないのは、最新の技術だ。いま素通りできないのは「ChatGPT」だろう。
人工知能による対話型の自動応答ソフトで、イーロン・マスク氏らが共同設立した米OpenAI社が昨年11月に発表している。まるで人間と会話をしているかのような応対力が話題だ。企画のアイデアを出したり、人間が介在しなくても自動的に記事を書いたりすることも可能になるとされている。
AI研究の第一人者で政府の「AI戦略会議」の座長も務める松尾豊・東大大学院教授は、
「善悪の判断は人間がしなければなりませんが、紙媒体を読者に届けるまでの工程は大きく変わるでしょう。ただ、進化のスピードが非常に速く、具体的なことは3年後すらわからないという状況です」
と前置きしてから、こう続けた。
「ChatGPTの登場は、メディアが変わるチャンスでもあります」
いま、新聞や雑誌がデジタル化したといっても、その多くが誌面(紙面)の転載だったり、「オンライン限定」としつつも、記事の作り方は誌面(紙面)と同じだったり。広告も、ただバナー広告を置き続けているだけのサイトも目につく。
松尾教授は、期待を込めて言う。
「これからはChatGPTによって、同じニュースでも、初めて知る人には概要を易しく、すでにくわしく知っている人にはよりくわしくといった具合に、それぞれに最適化して届けることができるようになるでしょう。ユーザーの嗜好をつかんでコンテンツや広告を当てにいくことが容易になる。本当の意味での『デジタル化』の始まりです」
インターネットは、当たり前になったがゆえに過去になった。これからはデジタル化とともに、本格的なAI時代が始まる。
著書に『2050年のメディア』(文春文庫)のあるノンフィクション作家の下山進さんは、これまでのメディアの歴史を振り返りつつ、断言する。
「持続可能なメディアになるためには、新たな技術と闘ってはいけません。積極的に触っていくことが重要です」
(編集部・古田真梨子)
※AERA 2023年5月29日号より抜粋