元バレーボール五輪代表 櫻井由香さん(48)/1974年、岐阜県出身。デンソーに入社。北京五輪に出場。2012年に37歳で引退後、Vリーグ機構などと業務委託契約中(写真:本人提供)
元バレーボール五輪代表 櫻井由香さん(48)/1974年、岐阜県出身。デンソーに入社。北京五輪に出場。2012年に37歳で引退後、Vリーグ機構などと業務委託契約中(写真:本人提供)

■引退後の方が人生長い

 引退後のキャリアに迷うアスリートもいる中、現役時代に「これ」というものを見つけた人もいる。バレーボール五輪代表で実業団選手だった櫻井由香さん(48)は、大好きなバレーボールを広めたいとの思いのもと、現役時代から普及活動にも力を入れてきた。

 櫻井さんが引退したのは37歳の時だ。リーグのシーズン中、所属チームの監督に“肩を叩かれた”時、「いやいや、もっと続けたい」と思った。当時、アキレス腱を切るケガで思うように動けていなかったため、来シーズンにどうリベンジするか考えていた矢先だった。

 正社員だった櫻井さんは、プロ選手が経験する戦力外通告はなく、引退時期を自分で決められる。他の選手はどう辞めどきを決めているのか。これまでチームメートと引退時期について話すことがなかったと気づいた。

 帰宅後、部屋で1人冷静になって一晩考えた。出した答えは、“引退”だった。

「会社は、競技の普及活動ができるポジションを作ってくれた。引退後に退職をしたり、欠員補充として配属される人もいたりするので、ありがたい申し出だと思ったし、今断ったら、来年は同じ話がないと思った」

 引退後は、出向先でバレーボールの普及活動にいそしんできた。だが、出向終了時に企業側から「普及活動は土日のみ」と言われ、退職を決意。その後、これまでと同様に競技の普及活動を認めてくれたイベント制作会社と、業務委託契約を結んだ。

 やりがいのある日々を送る櫻井さんが思うのは、「引退後の方が人生は長い」ということだ。

 現役時代、摂食障害になり過食嘔吐(おうと)の症状に苦しんだり、生理が止まったりしたこともある。

「現役時代に体や心を壊したら、将来自分のやりたいことができなくなる。引退したら終わりではなく、引退した先には、こんなにも広い世界が待っていると現役選手に伝えたい」

(フリーランス記者・小野ヒデコ)

AERA 2023年5月15日号より抜粋

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