両腕を切断された若い母親の写真をはじめ、本書所収の70枚前後の写真と、文章にはひりひりさせられる。アフリカの紛争地を撮った写真集で土門拳賞を受賞した亀山亮がカメラを向けるのは、相手と関係が築けてからという。僻地医療に従事する医師を撮影したユージン・スミスにならってのことだ。
著者は24歳のとき、利き目の左目を失明した。イスラエルの占領に抵抗するパレスチナで、撮影中にゴム弾に当たった。それでもカメラを手に病院を抜け出していく。なぜ、そこまでして──。だれもが思う疑問に「現地で生身のやりとりをして生死の手触りを感じたかった」と書く。ただ、日本を出国する日が近づくにつれ「憂鬱な気分」が募り、準備したフィルムを「全部使い切れば」、日本に帰れると思うようにしていると記す。
向かうのはアフリカの難民キャンプや精神病院など。家族を殺されて呆然とする女性の話に耳を傾け、銃を持つ兵士たちに凄まれれば身をすくめる。安全な国にいて「見ざる」「聞かざる」のまま、「何も知らない」でいいのかと問うてくるルポだ。
※週刊朝日 2015年3月6日号