過去2回の対戦でいずれも2回にKOしていた西武・東尾修監督もエルビラの名前を引っ掛け、「『冬のリビエラ』でも歌いながらいくぞ」と試合前から勝ったような気分だった。
ところが、この日のエルビラは、メキシコから家族が来日したことでテンションが上がり、この夜が故郷の気候を思わせる暑さだったことも、元気の素になった。
初回1死から連続四球を許したものの、冷静さを失わず、前回2ランを被弾した松井稼頭央を遊ゴロ併殺に打ち取ると、乗りに乗った。
2回以降は低めに球を集めて凡打の山を築き、9回1死にこの日の最速144キロを記録。そして、最後の打者・清水雅治を遊ゴロに打ち取り、前出のバンチに次ぐ史上69人目のノーヒットノーランを達成した。
試合後、息子のホヘ君を肩車してお立ち台に上がった陽気なメキシカンは「彼がラッキーを運んでくれた。ベリー・ベリー・ハッピー!」と最高の笑顔を見せた。
そんなナイスガイも、帰郷後の2020年1月、高速道路を走行中、武装グループの銃撃を受け、殺害されるという悲しい最期を迎えている。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。