来日した当時のアインシュタイン博士
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 毎日当たり前のように使っている測定単位。とくに、モノの長さを指し示す「メートル」は、日常生活の中でも使わない日はないだろう。しかし、なぜこの単位が使われているのか知っているか考えたことがあるだろうか。世界で多くの人が使っている測定単位「メートル」は、フランス革命によって人類が勝ち取ったものであった。そのメートルの成り立ちを、『測る世界史 「世界の基準」となった7つの単位の物語』(朝日新聞出版刊)を抜粋、再編集し、解説する。

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■太古より「測定」は権力の象徴だった

 1946年5月3日、リンカーン大学での名誉学位授与式典にアインシュタインが出向いたエピソードから、「1メートル」の物語が始まる。相対性理論を生み出した、現代物理学史上最大の立役者の信念はメートルが生まれた必然と相通ずるものがあったからだ。

 相対性理論は「時空」という、すべての物理現象が発生する「環境そのもの」を説明する、宇宙の大原則だ。「もっと小さなものを測りたい、より遠くのものを正確に捉えたい。」と、人間の活動範囲はあらゆる方向に拡大している。かつては権力者が領地・領民の管理のために必要とした測定が、現在では通商産業、技術、科学的探究心のすべてにおいて世界共通で永久不変の単位システムを求めるようになった。この単位システムは人類全体の財産となるはずだ。

 長さの計測は、時間と質量計測と同様に最も古く、人間にとって最も身近なものの一つだ。農業など生活の基礎的な活動にも関係している。

 起源はエジプト文明からと言われている。古代エジプトでは、度々起こるナイル川の氾濫は土地を肥沃に保つ代償に、耕作地を押し流し土地の境界線を曖昧にする。合理的な税収のために、測量や幾何学が発展していったのだ。

 エジプトに限らず、初期の文明では最も身近な基準として人体のサイズが用いられた。肘の先端から指の先端までの長さ「キュビト(約0.5メートル)」は、古代世界の測定単位として非常に広く普及した。聖書の中で308回も登場し、神がノアに箱舟の作り方を示す際にも使われているのだ。

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マイルの由来はラテン語の1000歩