■より正確な測定を追い求めて

 1875年には17か国が「メートル条約」に署名するなど、国際的な単位として認められ、同時に、正確な基準としてのメートル原器を維持管理する必要と責任が生まれる。条約と同時に設立された政府間組織の国際度量衡局(BIPM)では白金とイリジウムの合金で作成されたメートル原器を保管していた。

 どんなに正確に造形し、注意深く管理をしても、物理的な実体を持つものの宿命として、変形や測定誤差が生じる。ピッタリ1メートルの金属から、バーに刻まれた二つの印の間の距離が1メートルなど、より正確に測定し、保持できる方法が模索されるなか、運命の時は近づいていた。

 19世紀後半から20世紀初頭にかけては、現代の物理学と技術の基礎を築く数々の大発見が相次いだ。1873年にスコットランドの科学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルが発表した『電気磁気論』は、空の青さから電気自動車、加速器の素粒子の動きまでも記述ができる方程式を紹介している。電磁波の存在が実験で証明され、X線が発見される。1887年にヘルツにより光電効果が発見されると、10年後には「原子は陽子と中性子でできた核と、核自体の外側に配置された電子で構成されている」ことを理解するための鍵となる重要な理論が提唱された。

 もはや、金属の棒に付けられた目盛りでは世界を測定することができない、新時代がやってきたのだ。

■光速という最も“平等”なもので測る

 1960年、原子番号36のクリプトンという元素が、メートル原器に引導を渡すことになる。クリプトン86原子がエネルギー遷移中に出す光の波長の165万763.73倍を1メートルと定義したのだ。人間の目には赤橙色に見えるこの光が、測定を「自然に委ねる」プロセスの扉を開いたのだ。

 アインシュタインの相対性理論では、光はすべての慣性系で常に同じ速度c(光速)で移動することを示した。これが物理学に革命をもたらしたのだ。レーザー光線の登場で1983年にメートルの定義に変更が加えられ、2018年には、国際単位系全体が普遍的物理定数に基づいて再定義された。

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真の測定システムの誕生