■教室の本棚が空っぽに
禁書活動をする保護者を後押しするのが保守派の政治家だ。フロリダ州のロン・デサンティス州知事が昨年署名した「学校カリキュラムの透明性を確保する法」では、州が定める“専門家”の判断をパスしない本を教師が教室に置くことは許されず、小学校3年生以下の教室では「ジェンダー自認」について書かれた本を置くことは違法だ。この法に違反した教師には、刑事罰が適用される可能性がある。
小学校の図書室に配分される予算が乏しい学区では、教師が自腹を切って書籍を購入し、児童たちのために教室の棚に並べるケースが多いが、それも許されない時代になりつつある。
禁書が激化すれば、学校や図書館でしか本にアクセスできない貧困層の子どもたちが最も影響を受けると言われている。
黒人作家のジョージ・M・ジョンソン氏の『All Boys Aren’t Blue』は、彼の出身地のニュージャージー州の教育委員会でも、禁書か否かを巡って議論となり、彼の母が「息子の作品はポルノではない」と教育委員会の集会で訴えるに至った。
「その集会に11歳のカイルという白人少年が出席していて、彼が『僕はバイセクシュアルだけど、これまでさんざん異性愛者たちの物語を読まされてきた。でも、そんな本をいくら読んでも僕の性的指向は変わらなかった。だからジョージの本を読んだ異性愛者が同性愛者になってしまうのでは、という心配は無用だよ』と発言した。カイルの発言のおかげでその学校区では禁書にはならずに済んだよ」とジョンソン氏は語った。
■禁書がセールス1位
また公立図書館への圧力は、保守派が強い州だけで起きているのではない。カリフォルニア州ベイエリアの図書館では、プライド月間のイベントの一環で女装をしたドラァグクイーンが子どもたちに本の読み聞かせをしていると、数人のプラウドボーイズが乱入し、LGBTQへの差別用語を叫ぶ事件が起きた。
「ファシズムって、こうやって始まるんだと思う。彼らは自分たちと違う人間がパワーを得るのが怖くて仕方ないんだ」とジョンソン氏は言う。
多くの学校図書室で彼の本が禁じられる中、アマゾンのヤングアダルトLGBTQ書籍部門では1位の売り上げを記録し、3千以上のレビューが書き込まれた。保護者たちから「読むな」と言われれば言われるほど、子どもたちには逆に「クールな本」となる現象が起きている。
黒人少女の生き方を描いた大ヒット小説『The Hate U Give(あなたがくれた憎しみ)』も21年の全米禁書リスト5位に入っている。作者のアンジー・トーマス氏は、少女の幼なじみの黒人少年が白人警官によって射殺される事件を通して、米国で起きている社会問題を浮き彫りにし、同作品は映画化もされた。
LAブックフェアでトーマス氏はこう語った。
「私は政治ではなく、自分や友人たちに実際に起きた出来事や個人の感情を書いている。書く理由? 社会の脇に追いやられ無視されてきた黒人の子どもたちに、自分のことを書いた本が、この世に存在することを知ってほしいから」
ちなみに22年の全米禁書リスト3位には、ノーベル文学賞受賞者で黒人作家のトニ・モリスンの作品も入っている。(在米ジャーナリスト・長野美穂)
※AERA 2023年6月12日号より抜粋