米国では近年、全米の図書館から特定の書籍を排除する動きが広がっている。標的は「LGBTQ」「黒人」「性自認」などをテーマにした書籍だ。なぜ、米国の教育現場で「禁書」を求める動きが活発化しているのか。AERA 2023年6月12日号の記事を紹介する。
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全書籍で見ると、全米図書館協会のデータでは22年に全米の図書館に合計1269件の「禁書要請」が提出されたことが報告されている。これは前年の2倍近い数だ。ちなみに、禁書要請最多の書籍は『ジェンダー・クィア』という題の、イラスト形式で描かれた回想録だ。
なぜ近年急に、こんなにも「禁書」を求める動きが活発化しているのか?
「ごく少数の保護者たちが『自由を求める母親の会』などのグループを結成し、LGBTQや黒人や有色人種の表現の自由を抑圧する目的で組織化しているのが特徴」と全米図書館協会会長を務めるレサ・カナニオプア・ペラヨロザダ氏。
例えば学校の図書室に禁書要請が寄せられた場合は、学校区の教育委員会の委員投票で禁書か否かが決まる。米国では教育委員会の集会は夜間に開催され、子どもの保護者や住民が自由に参加して発言することができる。
「児童ポルノは法律で禁止されているのに、性的描写のある本をなぜ子どもの手が届く学校の図書室に置くのか。レイプ文化を小中学生に学ばせたいのか」という保護者の発言が、フロリダ州の教育委員会の集会で出た。
図書館司書のペラヨロザダ氏は「ポルノ認定される本は、そもそも公立図書館や学校図書室の蔵書にはない。プロの司書の判断をパスした書籍しか棚には置かれていない」と反論する。
禁書要請の報告が最も多かった州はテキサスで、ミシガンやフロリダなどが続く。「ミシガンのある図書館の返却箱の中には、弾丸が入っていた。私たち図書館司書たちはペドファイル(小児性愛者)やグルーマー(性的搾取のため相手を手なずける者)だと誹謗中傷され、脅迫されて退職を余儀なくされた司書もいる」とペラヨロザダ氏。
保護者たちが、フェイスブック上で特定の司書の個人情報を晒して攻撃することもあった。
LAブックフェアでは「禁書を読もう」というバッジを胸につけた女性がこう語った。
「フロリダを訪れた時『ここではそんなバッジをつけて歩くなんて怖くてできない』と住民から言われて深刻さを実感した」