外国語の習得も同じでしょう。第一言語が確立している場合、さまざまな動物のサンプルを見て「これがcat」「あれはdog」と比較して覚えていく手間は必要ないですが、第一言語に存在しない語彙は実際に見たり触れたりすることで確実な習得につながります。

 私の場合、「alligator」と「crocodile」という単語がそうでした。日本語ではどちらも「ワニ」とひとくくりにされてしまいますが、英語、特に alligatorが多く生息し、アメフトチームのキャラクターにもなっているようなアメリカ南東部では明確に区別されます。といっても日本語にない言葉なので、「口を閉じたとき下あごの4番目の歯が見えなくなるのがアリゲーター、口を閉じても見えるのがクロコダイル」などと説明されても一向に覚えられなかったのです。それが、南部ニューオリンズでアリゲーターの肉を食べたときからはっきり区別できるようになりました。フライにされたアリゲーターは、恐ろし気な見た目とは裏腹の、舌に優しい淡白なお味。その体験から連想されて「アリゲーターは案外おとなしい」「クロコダイルの口はV字型だがアリゲーターはU字型でなんだかかわいい」のような情報がどんどんつながり、記憶に定着したのです。

 視覚でも聴覚でも味覚でもなんでもいいから、とにかく五感をはたらかせること。子どもにはつい実になるお勉強をと思って本を読んだり動画を見せたりしてしまい、それらももちろん悪いことではないでしょうが、体を使う実体験こそ大事だなと考えさせられたネコとの遭遇でした。

〇大井美紗子(おおい・みさこ)
ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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