1歳7カ月の息子を連れて、知人のお宅へ遊びに行ったときのことです。お宅には人間好きのネコちゃんが1匹おり、ふわふわの毛とぽむぽむの肉球で私たちを温かく出迎えてくれました。我が家は夫がアレルギー持ちのため、ネコを飼うことができません。息子にとって人生初のネコとの遭遇。「ネコちゃん、かわいいね」「ネコちゃん、なでなでしようね」と息子へ話しかけながら、寛大なネコちゃんにすり寄ったりすり寄られたりして思う存分遊んでもらいました。
その日を境に、息子の語彙に「ねこ」が加わりました。1歳7カ月、まさに語彙が爆発的に増えている時期です。面白いのは、息子がどの動物を指すにも「ねこ」と言うこと。犬もねこ、牛もねこ、ワニもねこ。哺乳類だけでなく空を飛ぶムクドリを指して「ねこ」、地を這うテントウムシまで「ねこ」と呼んでいたのには笑ってしまいました。でも動くものすべてが「ねこ」なわけではなく、ゼンマイ仕掛けの車やお掃除ロボットはそう呼びません。どうやら1歳7カ月の子でも、生命があるものとそうでないものが見分けられるようです。
さらに興味深いのは、息子は今までテレビや絵本で散々ネコの写真やイラストを目にしてきたという事実です。特に朝6時55分から放送しているEテレの「0655」は我が家のお気に入り番組で、視聴者の愛猫を紹介するコーナーで毎日のようにネコちゃんの写真を「ねこ」の言葉と共に鑑賞しているのです。百聞は一見に如かずとはよく言ったもので、1歳の子どもが「ねこ」という言葉を覚えるには、本物のネコちゃんを自分の目で見、実際に自分の手で触ることが必要だったようです。
かのヘレン・ケラーも──と、我が子のエピソードと並べて歴史上の偉人を登場させることをお許しください──「水」という言葉、ひいては「物にはすべて名前がある」という概念を獲得したのは冷たい井戸の水に触れた時でした。ヘレン・ケラーの場合、視覚にも聴覚にも頼れず触覚でのみ事実認識ができたからだとも言えますが、ともかく人間の言語能力を発達させるには、実体験が引き金になるのではないかと思います。