ネット時代を生き延びよう──。新聞や雑誌の多くが、紙の編集部を縮小し、デジタル展開に注力するようになった。だが、慶応義塾大学の小林慶一郎教授(マクロ経済学)は、
「60年には人口が9千万人を切り、少子高齢化のトレンドが続きます。経済規模は現在より3割ほど小さくなるでしょう。インフレも起きると予想しています。人々の財布の紐は今以上に固くなる。ネットで無料で利用できるものにお金を使うことはなくなるでしょう」
と指摘する。
■無料がやめられない
著書に『2050年のメディア』(文春文庫)のあるノンフィクション作家の下山進さんは、紙媒体が苦境に陥っている要因について、各社の当事者に取材を重ねてきた。それを踏まえて、こう分析している。
「ネットのプラットフォームにニュースを出すと何が起きるのかに対して、あまりにも無自覚だったことが最初の間違いです。第二の間違いは、独自のデジタルメディアを立ち上げたものの、ほとんどが無料公開だったこと。ネット広告は安く、記者の給与と取材費をまかなうことはできないにもかかわらず、自分の書いた記事のPVが上がると喜ぶ記者は多い。無料がやめられなくなってしまっているのです」
16年1月から19年5月まで、バズフィードジャパンの創刊編集長を務めた元朝日新聞記者の古田大輔さんは、
「国内の紙媒体業界がデジタルでの収益化に苦戦する中、革新的な進化をしている新聞社もある」
と話す。例えば、米ニューヨーク・タイムズ(NYT)。ニュースだけではなく、スポーツ、ドキュメンタリー、ライフスタイル、ゲームまであらゆるコンテンツを提供するデジタル総合メディアに成長し、課金・広告ともに収入を伸ばしている。古田さんは、
「選ぶのが煩雑なほどにコンテンツが氾濫し、ニセ情報も拡散している。ユーザーにとってもっとも便利なのは、ここにいけば信頼性が高く、自分に必要なコンテンツが全てそろっている、ということ」
と指摘。ウェブメディアも続々と立ち上がる中、
「デジタル化した伝統メディアも含めた競争環境は激しくなっている」(古田さん)
確かに、その通りだ。
では、本当にもう「紙」は必要とされないのだろうか。