

音楽にジャンルはない。あるのは、よい音楽とよくわからない音楽だけだ。と、書いてみたが、音楽について書くには、ある程度のジャンル分けのようなものがあった方がわかりやすいし、文章でも伝えやすい。
ところで、このコラムをいくつか読んでいただけるとわかると思うが、わたしの音楽に関する嗜好は、いわゆる雑食である。いろいろなジャンルの音楽を聴く。
このコラムでは、ポピュラー音楽をテーマにしたものが多いが、個人的にはクラシックもよく聴く。世界の民族音楽なども好きだ。タイの山奥の山岳民族の音楽を録音するというグループと一緒にモン族の村に1週間くらい滞在したこともあった。
といっても、よく聴く音楽の中心は、50年代から70年代あたりまでのロックやジャズが多いと思う。中学の高学年、1970年代の初めから音楽を聴き始め、同時代の音楽としてつきあいながら、過去の音楽をたどってきた。いい時代だったと思う。
はじめは、LPレコードやドーナツ盤といわれるシングル・レコードが主流で、だんだんFMラジオでの音楽放送が人気を得て、カセット・テープ・レコーダーが生まれて、好きな音楽を録音して、野外に持って出かけることも簡単になった。そして、CDへと変わっていった。
音楽が、ビジネスとしての市場を拡げていった時代といってもよいだろう。
そんな時代の中で、わたしの人生の横には、いつも音楽があった。しかし、その頃のわたしの音楽知識の中で、一番情報が足りなかったのが、黒人音楽だった。
今では、ブラック・ミュージックと呼ぶのがよいのだろうか。
今回、このコラムでわたしが話題にしようとしている音楽の種類を補足すると、ジャズを除いた黒人音楽といえばよいであろうか。
はじめてわたしが意識した黒人音楽は、ビートルズが演奏するカバー曲だった。初期のビートルズのLPには、オリジナルだけなく、他の作曲家、シンガーのカバーが何曲かあり、その中に黒人音楽も含まれていた。わたしのブラック・ミュージック遍歴は、その原曲を探ることからはじまった。(※文末に今回紹介した曲へのリンク集をつけたので、参考にしてほしい)
ビートルズのデビューアルバムからは、《ツイスト・アンド・シャウト》が気に入った。といっても、わたしがはじめて聴いたアルバムは、『ステレオ! これがビートルズ Vol.1』という、日本での編集アルバムだった。ジミ・ヘンドリックスが参加していたことでも知られるアイズレー・ブラザーズのヒット曲のカバーだということは、わかった。また、《ベイビー・イッツ・ユー》も、シュレルズという4人組の黒人女性コーラス・グループが歌っているのを知った。このアルバムは、14曲中6曲がカバー曲だ。しかも、6曲すべてが黒人が歌っている曲なのだ。
次の『ステレオ! これがビートルズ Vol.2』では、《プリーズ・ミスター・ポストマン》《ロール・オーヴァー・ベートーヴェン》《マネー》などを知る。
特に、《プリーズ・ミスター・ポストマン》は、カーペンターズも歌ってヒットしていたので、誰もが知る曲となった。原曲はマーヴェレッツという4人組女性グループが歌っていた。ちなみに《ロール・オーヴァー・ベートーヴェン》はチャック・ベリー、《マネー》はバレット・ストロングの曲だ。
79年にフライング・リザーズというグループが、段ボール箱をたたいたような音のリズムで、チープだけれど、なんだか新しい感じの演奏の《マネー》を発表した。同じ曲でも、編曲で印象が変わるのだなと新鮮な発見をしたものだ。余計なことだが、ピンク・フロイドの《マネー》は、まったく別の曲。
それからこれも余談だが、新宿の厚生年金会館で、チャック・ベリーの来日コンサートを見ている。81年だったと思う。
ローリング・ストーンズも、黒人音楽を数多くコピーしている。最初に気になったのは、バンド名の元になったという《ローリン・ストーン》曲を演奏するマディー・ウォーターズだ。《むなしき愛》と日本語のタイトルがついた《ラヴ・イン・ベイン》は、ロバート・ジョンソンの原曲を探して聴いた。ストーンズのオフィシャルな音源があったので、リンクを貼っておく。
https://www.youtube.com/watch?v=ryRDcE2sB2A
そして次には、レッド・ツェッペリンの元歌となった黒人ブルースを探す旅へと続いていくのだ。
すでにおわかりかと思うが、わたしは白人人気バンドのカバー曲を調べることで、黒人音楽の世界に入っていったのだ。その頃、購入していた音楽雑誌といえば、『ミュージック・ライフ』とか『音楽専科』といったロック関連の雑誌だった。黒人音楽をもっと知りたいと思っても、その情報は、これらの雑誌やレコードのライナーノーツくらいしかみつからなかった。そういう意味では、当時のレコードのライナーノーツは、重要な情報源であったと思う。
雑誌で取り上げられないアーティスト、あるいは最新の情報は、レコードのライナーノーツを読むしかなかったのだ。だから、あの頃はライナーノーツを読むために日本盤のレコードを買ったのだ。
どんなメンバーで構成されているのか? いつデビューしたのか? どんなアーティストに影響を受けたのか? 本国ではどのような評価を得ているのか? などなど、そのレコードやアーティストの一番の情報は、ライナーノーツなのだった。だから、アーティスト紹介が掲載されていないもの、ライターの感想だけのものなどは、がっかりしたものだ。
しかし今では、インターネットでかなりのアーティストの情報を知ることができる。そういう意味では、CDのライナーノーツの役割が変わってきたということである。
そして78年、ミュージカル映画『TheWiz』で、ダイアナ・ロスとマイケル・ジャクソンの共演を見る。
正直に言うが、ダイアナ・ロスを意識して聴いたり、シュープリームスをあらためて振り返るのは、この映画『TheWiz』を見てからだ。
66年にシュープリームスでヒットした『キープ・ミー・ハンギン・オン』も、67年のヴァニラ・ファッジの演奏で知ったのだし、やはり66年のシュープリームスのヒット『恋はあせらず』も、82年のフィル・コリンズのカバーで興味をもったのだ。
ダイアナ・ロスやジャクソン5やスティーヴィー・ワンダーなどが、モータウンというレーベルに所属していたこと、タムラ・レコードというのが日本のレコード会社ではなく(笑)、モータウンの中のひとつのレーベルだと知るまでに、何枚のレコードを聴き、ライナーノーツを読んだことだろう。
15歳で女の子3人組のシュープリームスの一員としてデビューしたダイアナ・ロスは、アメリカを代表する世界の大物歌手として君臨している。観ておきたい歌手の代表だ。[次回12/17(水)更新予定]
■公演情報はこちら
http://www.hipjpn.co.jp/live/diana/
■参考
ご紹介した曲のURLです。お時間あればどうぞ。
http://www.geocities.jp/musicstreetsource/blackmusic.html