(C)Mira Takahashi
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モノクロームのプリントで「女性の性」「神秘」をテーマに、数多くの女性の優しさ、強さ、繊細さなどの内面から生まれる世界観を追及してきた髙橋ミラの新作展「~ 希(ひかり) ~」が東京・下北沢のスマートシップギャラリーで12月7日まで開催されている。本展は、自身の体を張って「命の尊さ」を伝えたいとモデルを志願した、ある一人の女性のドキュメンタリー作品を展示するものだ。開催に先だって髙橋さんにお話しをうかがった。(聞き手:池谷修一・アサヒカメラ編集部 協力:ハービー・山口)

髙橋さんは今回の展示プロジェクトをどんな経緯で進めてきたのですか?

髙橋 ご本人と私だけが長い目で見て、最終的なかたちとして「写真展にしたいね」っていうお話をしていたんです。ドキュメンタリー的に撮っていました。

きっかけは?

髙橋 私はライフワーク的なテーマとして主に妊婦さんのポートレートに撮っています。ある時、妊婦さんではないのですが、今回のモデルになってくださった方から「いま抗がん剤治療をしていて、まもなく髪の毛がなくなります、私の生きた証を撮っていただけませんか」と、メールをいただいて。それがきっかけです。私自身、かつて婦人科系の病気を患っていたことがあるんです。

髙橋さんのホームページを見て、連絡を?

髙橋 はい。それでお会いして、いろいろお話しました。私も彼女も婦人科系の病気を患い手術をした経験があるので、そういう共通点があって神様がめぐりあわせてくれたのかもしれないですねと、意気投合して。彼女も私もいちばんの願いが「体に傷をつけてほしくない」ということと、検診を受けてほしいということなんです。検診を受けていただくことで、自分と向き合うことが出来ると思うんですね。

「知ろうとすること」がきっかけになるんですね。

髙橋 写真展にして、一人でも多くの方に自分と向き合って検診を受けていただきたいとおっしゃっていたので。たとえば、展示を見たのがパートナーの方なら、奥さまだったり彼女だったり、またはお母さまの体をいたわって、「最近検診受けた?」とか「体調どう?」と、そういう会話のきっかけになったらいいなと、ふたりで考えていました。それが2011年の7月の話で、その後に1度、2012年の3月に2度目の撮影をしました。

撮影はその2度ですか。

髙橋 はい。そして撮ったものを確認いただきたいと、写真をお渡していたんです。でも、お返事がなかなかかったんですね。
その後お母さまからご連絡いただいて、3カ月前に亡くなられていたことを知りました。たまたまお掃除をしていたときに私が撮った写真が出てきたそうで、こういう写真を撮っていたんですね、と。お母さまには、本当に私と彼女だけが知っている内容ですけれども、(写真展は)確かにお約束はしていたんです、というお話をしました。それから何度かお会いして、そういう約束をしていたのであればということで三回忌の時に改めて承諾をいただいて。その後は結構いろいろ開催場所をさがしていたのですが、ギャラリーにもさまざまにカラーがあって、女性の性というのは受け入れてくれるとこがなか少ないという現実にぶつかりながら、なんとか今回SMART SHIPS GALLERYさんで展示をすることが決まったんです。

なるほど。撮影していたことは髙橋さんとふたりだけのプロジェクトだったのですね?

髙橋 はい。ほとんど話されていなかったみたいですね。ご主人には写真を撮りたいということはお伝えしていたようです。ご主人は、「じゃあ、僕の知人だったり、誰か撮る人がいるかもしれないよ」と、話されていたらしいです。けれども、やっぱり自分と同じように婦人科系の病気を患って、同じ視点で物事を見られる人に撮ってほしいということで、私のことを選んでくださったのかなと。

展示作品についておしえていただけますか。

髙橋 笑顔ばかりの写真ではなく、生々しい傷跡だったり、そういう部分の写真も多くを占めていいます。でも彼女はそういう傷も見せたい、あえて撮ってほしいともおっしゃっていました。外国に旅行に行っても、海に行った時に水着を着て堂々と私は見せてきたんだ、と。私のように傷をつけてほしくないっていうことを伝えたいと何度もお話されていました。
ちょっとおかしいなって思っていても、「大丈夫だ。私には関係ない」っていうふうに誤魔化して過ごしてきた時間をすごく後悔しているとおっしゃっていました。こうなってからでは遅いんだよ、ということをお伝えしたいなと。

メッセージがはっきりと込められた展示なのですね。

髙橋 ただけっして硬い内容の写真展ではなくて、希望の「希」の一文字で「希 ひかり」展というタイトルをつけているんですが、彼女からのメッセージを通して多くの方に、心に光を灯すことが出来たらいいなと考えています。

髙橋ミラ(たかはし・みら)
1978年山形県生まれ。14歳から写真を撮り始める。19歳の時に卵巣膿腫を患い手術を受ける。その後、「女性の性」をテーマに写真を撮るようになり、写真を通して「命の尊さ」「検診の重要さ」を伝えたいと妊婦中の女性を撮影し、写真家として活動を開始。2011年の個展「Mother ~内なる光~」では、命を宿した女性の美しさを独自の視点で表現した。

髙橋ミラ写真展 ~ 希(ひかり) ~
会期:2014年11月24日(月)~12月7日(日)
会場: SMART SHIP GALLERY
開館:12時~19時(最終日は18時まで)
休館日:水曜日
住所:東京都世田谷区代田6-6-1 フォレッジオ下北沢3F
TEL: 03-5465-1377

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