■「災いの記憶」社会全体で継承
これは震災で418人が犠牲となった大川地区の住民たちの証言をまとめたものだ。津波の被害も書き込まれているが、いまは存在しない飲食店や企業の情報、「ここで泳いだ」「下校時の近道」「みんなの溜まり場」といった、その土地に住んでいた人しかわからない「思い出」もマッピングされている。
「悲しい記憶の場所ではありますが、住んでいた方々にとっては大好きな場所でもありました。小さなメモリーの積み重ねでできているのが街。その街の思い出を記録していく場として、被災地の方向けに作った大事なアーカイブです」(渡邉教授)
そのほかにも渡邉教授は、朝日新聞の取材をもとに作成した「東日本大震災アーカイブ」(12年)や、震災当時のツイートを3D地図上にマッピングした「東日本大震災ツイートマッピング」(21年)などの作成にも携わった。
渡邉教授はこれらの取り組みを「社会に“ストック”されてきた情報の“フロー”化」と話す。
「世の中にあふれている情報はわかりやすい形で流れてこないと人々の関心の対象になりません。ビジュアル化はその一つの形です」(同)
渡邉教授は現在、「東京大学基金」でデジタルアーカイブの開発・運用の資金を募っている。集まったお金はVR(仮想現実)やAR(拡張現実)などを活用したアーカイブシステムの開発や、人材の育成に使う予定だという。同基金のサイトから誰でも寄付することができる。
「災害や戦災などの『災いの記憶』を、社会全体で継承して活用していく仕組みを作ることを目指しています」(同)
(本誌・唐澤俊介)
※週刊朝日 2023年3月24日号より抜粋