「震災犠牲者の行動記録」の画面
「震災犠牲者の行動記録」の画面

 多くのデジタルアーカイブは写真や動画の収集に軸足を置き、検索機能をあまり充実させてこなかった。震録伝も、これまでは「瓦礫」と入力しても「ガレキ」と登録された写真は出てこなかった。柴山准教授はこうした点の改良を重ね、情報を見つけやすくしてきた。

「目的があって情報を探している人に、より効果的に情報を届ける仕組みを構築することが、一番重要なことだと考えています」(柴山准教授)

 震災を記録して伝えるという面では、私たちマスコミの記者も、その一翼を担っている。

 なかでも岩手日報社が21年に東京大学大学院の渡邉英徳教授とともにつくったサイト「忘れない震災遺族10年の軌跡」は、紙面にとどまらない先進的な取り組みとして注目を集めている。

 主要コンテンツの一つ「震災犠牲者の行動記録」は、津波の犠牲者がどのような行動を取ったかを3D地図上にマッピングしたものだ。岩手日報が11~16年にかけて実施した遺族取材をもとにした。

 地図上の赤い点は女性、青い点は男性を示し、匿名もあるが、それぞれの氏名も表示されている。点の位置は時間の経過とともに移動していくが、速度には個人差があり、全く動かない点もある。記者のそばで渡邉教授が解説する。

「同じ名字で固まって移動しているのはおそらく家族です。隣町からやってきたり、山のほうから下りてきたりしている人もいます。家族が心配で向かっているのでしょう」

 犠牲者の氏名があることで、ただの点の動きから目が離せなくなった。3D地図では高低差が一目でわかり、低地に向かう点を見ると、心がざわめいた。高台に避難した人が助かっていることも視覚的に実感できた。

 サイトにはほかにも、震災から10年間の震災遺族の住居形態や居住地の経過をマッピングした「生活再建マップ」や、遺族のコメントをAIで分析して転居に伴う心情の変化などを表やグラフで表した「言語分析」というコンテンツがある。

 渡邉教授は、戦災や災害の記録をビジュアル化したデジタルアーカイブをこれまでにいくつも手がけている。宮城県の一般社団法人「長面浦海人(ながつらうらうみびと)」と協力して21年に作成した「『記憶の街アーカイブ』石巻市大川地区」もその一つだ。

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