
■都心で育ったからこそ地方の価値が発見できる
島田は、WAAをスタートした16年に「日本の人事部」が主催する「HRアワード」個人の部・最優秀賞を受賞している。自他ともに認める“天職”だった人事責任者の職を手放した今、何をしているのか。聞けば、和歌山だけでなく、石川、沖縄など、日本中を飛び回っているという。
「これから私が集中したいテーマは四つ。日本の働き方をよりよくすること、人材育成の手法の質を上げること、地方を元気にすること、そしてウェルビーイング、一人ひとりの力が輝く社会の実現です。これら四つすべてが結び付いたのが、地域と連携したワーケーション推進。特に、第一次産業が抱える課題を解決したくて」
例えば、昨年6月に和歌山県みなべ町で企画した「梅収穫ワーケーション」は、人手不足に悩む梅農家の収穫作業を手伝いながら、リモートワークをするプログラム。昨年開催した第1回には、都市部から会社員や経営層123人が集まり、継続開催が決定した。参加者側からは「体を動かしてリフレッシュして、仕事の能率が上がった」「農村部の人手不足の現状を実感できた」「思う通りにはならない自然との向き合い方が学びになった」といった感想が、受け入れ側の農家からは「まさか都会の方がこんなに喜んで手伝ってくれるなんて」と驚きの反応があったという。ほかにも、同県すさみ町のウツボ漁を応援するプログラムや、他県で林業を活性化する企画も進行中だ。
島田自身は東京都港区の白金生まれの都心育ち。「都会しか知らない私だから、地元の人が気づいていない価値を発見できるのかもしれないですね。日本には素晴らしい自然資産がたくさんあって、その恵みを守ってくださる第一次産業従事者によって私たちの生活は守られている。地域と交わる経験は最高のリーダーシップ育成にもなる」
冒頭のイベントの合間に町中を歩いている間も、島田を呼び止める声が後を絶たない。町役場の駐車場にいた15分ほどで地元の農家や加工会社経営者が3人も車から降りてきた。一緒にピースサインで写真を撮り、「由香ちゃん、あの件、どう進めたらいいと思う?」と立ち話で相談が始まる。島田の滞在時間が長引いても後の予定に支障が出ないようにと、調整役が自然と現れる。島田の活動に共感して行動を共にするようになった老若男女が、チームのように動いている。
「由香さんは誰に対しても壁をつくらない人。それに都会から来る人にありがちな『口だけで終わり』じゃない。自ら動くし、皆が帰った後に率先して片付けをするのを何度も見た」
共に活動する仲間からは、そんな声も聞かれた。