先の都知事選で田母神俊雄候補の応援演説に立った際、他候補を「人間のくず」「売国奴」と呼ぶなど、発言が物議をかもしている作家の百田尚樹氏。NHKの経営委員なんかになってしまったばっかりにね。もっとも首相も本当は都知事選で田母神候補を応援したかったにちがいない。この本を読めばわかる。
安倍晋三+百田尚樹『日本よ、世界の真ん中で咲き誇れ』は、雑誌「WiLL」での対談を中心に2人の仲良しぶりを披瀝した「安倍ヨイショ本」である。2人は自民党が野党だった2012年に対談で知り合って意気投合。〈何を隠そう、これほど有名になられる前から私は百田さんの作品の愛読者〉と安倍がいえば、〈安倍政権の誕生によって、ようやく明るい希望が見えてきました〉と百田が応えるといった案配で、気持ち悪いほどの相思相愛ぶり。
ことに首相に対する作家の心酔の仕方は尋常ではない。〈優れた歴史観と国家観、政治的な手腕と能力は自民党随一〉。〈安倍晋三から受けたもう一つの印象は、「自分の言葉を持っている政治家」というものだ〉。第1次安倍政権の退陣は〈私たち「国民の敗北」であった〉。しかし〈安倍晋三は死ななかった。雌伏の5年を経て、以前よりも遥かに強靱な政治家として舞い戻ってきた〉。
そこまでいうなら、勝手に安倍の評伝でも書けばいい。なにしろ彼は首相のいいたいことを代弁するのも得意なのだ。〈「戦後レジーム」というのはやや抽象的表現ではあるが、私自身は「戦後の自虐史観からの脱却」と解釈している〉。〈従軍慰安婦が70年代以降、左翼系マスコミ、反日団体、一部の在日韓国・朝鮮人たちによって、いかに狡猾に、また巧みに捏造されてきたか〉。
発想法も好む用語も安いウヨクのそれってところが笑わせる。官邸はいっそ百田氏をスピーチライターに起用してはどうか。優秀な作家の手が加われば「アンダーコントロール」や「積極的平和主義」の意味もきっと明瞭になるだろう。
※週刊朝日 2014年2月28日号