「大人になったら、世界中を自由に旅してみたい!」
 子どもの頃、学校と家の往復という狭い世界が息苦しかった私は“旅人”に憧れ、会社勤めの傍ら、海外を旅するようになった。
 ダライ・ラマの自伝『チベットわが祖国』を読み、神秘的な世界に心惹かれると、一路チベット文化圏へ。ダライ・ラマは世襲ではなく、仏教の根底にある輪廻転生で本人が「生まれ変わる」とされているのだ。旅先で前世を覚えている少女と出会う等、不思議な体験を経て、憧れのダライ・ラマとも謁見(えっけん)でき、私は旅行記を出版することもできた。
 そんな風に会社員と作家を両立させつつも私は自分自身でいるのが苦しかった。大好きな旅に出られるのは数年に1度。私の心が最も喜ぶ「旅」が、会社員としては最もダメな欠点だと思えるのが何より辛かった。
 人生に悩んだ私は、“旅の民”ジプシー(ロマ)に会いにルーマニアへ。ド派手な衣装を着て、自由で自信に溢れたジプシーと過ごすうち、「直そうと思っても直せないモノ、それが自分の個性なんだ!」とようやく腹をくくることができた。
 18年勤めた会社を退社した私は、子どもの頃から憧れていた“旅人”になった。手前ミソだが、拙著『ジプシーにようこそ! 旅バカOL、会社卒業を決めた旅』に最も影響を受けた読者は私自身だったのだ。
 世界1千万部の大ベストセラー『アルケミスト』は羊飼いの少年が宝探しに旅立つ寓話的な物語。「おまえが何かを望む時には、宇宙全体が協力して、それを実現するために助けてくれるのだ」等、今だからこそ心に染みる言葉の数々!
 誰だって自分の心が喜ぶことがしたい。何かをするときは、いつでもそこからスタートしたい。でも、私はずっと、楽しんじゃいけないと思い込んでいたのだ。
 手遅れになる前に、この本と出会えてよかった。自分を好きになれないまま、死ななくてよかった。旅本の魅力は「知らなかった世界」を知り、「行動できる自分」になることなのだ。

週刊朝日 2013年8月16・23日号