撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃
撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃

 今は、家族のサポートのもと、本谷さんの仕事が成り立っている。

「稽古の時間以外にも準備にかかる時間や思考する時間が必要になるので、それが捻出できないと、稽古にしわ寄せが来るんです。でも、わが家に教育方針があるとすれば、身近な大人がとにかく楽しそうに生きてれば子供は勝手に影響受けるでしょうっていう……。全力で何かにのめり込んでいる親の姿を見ていたら、子供心にも何か感じてくれるんじゃないかと」

 実際に、子供たちも、仕事に没頭して自分に構ってくれない母親に対して、特段寂しそうな姿は見せていないらしい。

「父親と一緒だと、娘も、無制限でテレビが観られますからね。私は、サブスクで1日1話までとか決めちゃうけど。人に任せたからには、その人のやり方には口を出さないっていうルールなので。私も自分のやり方にいろいろ言われると、やる気なくしますしね(笑)。ある程度の自由度がないと息が詰まる」

 現在、本谷さんが演出し、KAATで上演されている舞台のタイトルは「掃除機」。その戯曲は、岡田さんがドイツ・ミュンヘンの公立劇場カンマーシュピーレのために書き下ろしたものだ。19年の12月に自らの演出によって初演され、演劇祭テアタートレッフェンで“最も注目すべき10作品”に選ばれた。引きこもりの娘、無職の息子、80代の父親が暮らすある家の情景。日本のみならず世界的な社会問題としてあらわになってきた「8050問題」を、「掃除機」の視点から描いている本作。今回は、それが逆輸入された形の上演になる。

 海外といえば、本谷さんの小説も、芥川賞を受賞した「異類婚姻譚」や、大江健三郎賞を受賞した『嵐のピクニック』などが、海外で高い評価を得ているが。

「私自身、万人受けするものを書いている自覚は全くないので、国内で自分の小説を面白がってくれる人は、本当に貴重だなと思います(笑)。でも、自分の作風なり世界観なりを多少変えて、もっとみんなに受け入れてもらうっていうのも違うじゃないですか。今は、市場を世界に向けて、世界中からニッチを集めて裾野を広げるやり方もある。作家にとっては、自分の書きたいものを変えずに受け入れられたほうがそれは幸せなんだけど、世界市場ありきで物を作るのも、実はちょっと違和感があるんで悩ましいですね。願わくは、自分の書いたものが、結果的に海外でも受け入れられるっていうルートになったらいいなと思います」

(菊地陽子 構成/長沢明)

※記事前編>>「『昔は人を信用できなかった』本谷有希子が振り返る20代」はコチラ

週刊朝日  2023年3月17日号より抜粋

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