「がん共存療法は、いまは個人的な体験でしかないので、エビデンスを求めて臨床試験に取り組みたい。幸い、日本財団の助成を受けられることになりました」
今年1月から、大腸がんの術後で肺や肝臓に転移のあるステージ4の患者を対象に、聖ヨハネ会桜町病院(東京都小金井市)で臨床試験が開始された(詳しくは同病院ホームページ参照)。
「私はこの臨床試験を、患者さんとの共同研究と位置付けています。うまく延命できれば一番ですが、思うようにいかないことだってあります。でも、悔いなく精いっぱい生きたと評価できるような時間にしてほしい。患者さんたちにはそのことをお伝えして了解していただいています」
被験者の一人、都内在住のAさん(60)に話を聞くことができた。Aさんは17年末に会社の健診で受けた便潜血検査で陽性になり、大腸内視鏡検査を受けた。
「大腸のS状結腸のところに大きな腫瘍があり、肺への転移も3、4カ所ありました。妻や娘のことを考えると、パニックになりましたね」
手術で切除し、抗がん剤治療が始まると副作用に苦しんだ。手が痺れ、冷たい水を飲むと喉が痛むようになった。薬を変えると、今度は脱毛やだるさが表れた。
「気持ちがめげてしまいそうになった時、新聞広告で山崎先生の本を知り、読んでみました」
Aさんは当時、かかっていた病院の医師に「こういう食事療法があるのを知っていますか」と尋ねてみると、「僕たちは標準治療をするのがベストと考えています」と言われ、抗がん剤治療の継続を勧められた。だが、昨年10月を最後に中断することに決めた。がん共存療法に取り組み始めたAさんの表情は明るい。
「このまま治療を続けても抗がん剤が効かなくなるのはわかっていましたし、新しいことに挑戦できると思った。ごはんや麺など主食が好きですが、いまのところ我慢できています。カップラーメンにはこんにゃくや豆腐でつくった糖質ゼロ麺があるし、カリフラワーライスもある。おいしくないですけどね(笑)。山崎先生からはカロリーはしっかり取るように言われていますが、体調はいまのところいいですね」
(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2023年3月17日号より抜粋