日本人の死因第1位となって久しい、がん。多くの人が人生の最期で付き合うことになるこの病気には、抗がん剤による苦しみがつきものとされてきた。そんな常識に一石を投じる研究が、自らもがんを患う一人の医師により進められている。
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緩和ケアの第一人者である山崎章郎医師(75)は、進行した大腸がんの闘病を続けている。激しい副作用に悩まされた抗がん剤治療をやめて、新たな治療法を模索してきた。さまざまな代替療法に関する情報が氾濫するなか、多くの文献やデータに目を通し、理論的だと思ったものだけを取り入れていった。
「がんが存在していても、増殖しなければ、すぐに命に関わることはない。ゆえに、がんの増殖を抑制できれば、がんとの共存は可能である」との考えに至り、辿り着いたのが「がん共存療法」だ。
食事療法の「糖質制限ケトン食」を中心に、既存の薬やサプリメントなどを併用するというもの。自ら実験台となり、得られた効果を著書『ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み』(新潮選書)にまとめた。さらに普遍的なエビデンスを求めるため、今年1月から臨床試験を開始した。これまでの経緯について山崎さんに話を聞いた。
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山崎さんは2018年9月、大腸がんが見つかった。リンパ節に転移があり、ステージ3の進行がんだった。腹腔鏡手術で切除した後、再発予防のため抗がん剤治療を受けた。経口の抗がん剤を2週間服用し、1週間休薬する1クールを全8回、約半年間の治療スケジュールだ。2クール目から強い副作用に襲われ、食欲の低下、慢性的な吐き気や下痢に悩まされた。
山崎さんが振り返る。
「一番つらかったのは手足症候群でした。手足の指が黒ずんできて、皮膚が荒れ始めました。指の関節や手のひらの筋がひび割れて出血してしまうので、手を絆創膏だらけにしながら訪問診療の仕事をしていました。けれども、運転時のハンドル操作に不安を感じるようになり、途中でギブアップして1カ月休薬しました。減薬して再開するとやはり同様の副作用に苦しめられたのです」