19年5月、7クールが終了した時点でCT検査を受け、主治医から結果が伝えられた。
「両側の肺に多発転移があります」
再発予防のための抗がん剤は効果がなく、がんの最終段階であるステージ4へと進行したのだ。山崎さんは愕然とした。転移したがんの数が少なければ手術や放射線治療も可能だが、多発性の場合は困難だ。主治医から薬剤を変更してセカンドラインの抗がん剤治療を勧められたが、山崎さんは即答できなかった。
「ステージ4の固形がん(胃がん、大腸がん、肺がんなど)の場合、公的健康保険が使える標準治療は抗がん剤治療にならざるを得ません。しかも、その目的は治癒ではなく、延命と症状緩和です。効果があっても数カ月から数年の延命です。抗がん剤は最初のうちは効いていても、薬剤耐性ができてがんは大きくなり、いずれ限界がきます。延命された時間のほとんどを副作用との闘いに費やされ、かえって命を縮めてしまうかもしれない。治らないことが前提なのですから、私は残りの人生のクオリティーを考え、抗がん剤治療を受けないことに決めました」
とはいえ、生きることを放棄したわけではない。だが、標準治療である抗がん剤治療を選択しなければ、病院から通院そのものを断られてしまうこともある。ステージ4を宣告されても、終末期に至るまでは普通の生活が送れる人も少なくない。途方に暮れながら自費で代替療法や民間療法を探し求める人々は“がん難民”とも称される。山崎さんはこうした問題を解消するための支援策を提案する。
■がんの増殖抑え自分らしい時間
「たとえ標準治療を受けなかったとしても、死に直面して不安な日々を過ごす人々の心身のケアが必要です。ステージ4と診断された時から『外来での緩和ケア』を保険で保証すること。また、在宅や入院での緩和ケアを受けるようになるまでの間、『生きがい給付金』として一律に月5万円程度を支給することを提案したい。自費で代替療法を受けざるを得ない人たちにも少しは支援になるはずです。もちろん、制度の問題ですから、実現には政治の力が必要です」