山崎さんは自らできることとして、新たな選択肢となり得る延命治療を探すことにした。怪しげな代替療法などの情報があふれるなか、理論的に根拠のあるものを見分け、副作用が少なく安価でできることが条件だ。がんをできる限り増殖させずに、自分らしく生きるための「無増悪生存期間」の延長を目指した。

 19年9月から、最初に取り組んだのが「糖質制限ケトン食」という食事療法である。がん細胞が増殖するための主な栄養源である糖質を制限することで、同時に抗がん効果が期待できる「ケトン体」という物質が体内で増えるという。

「ダイエットではないから、糖質に代わるエネルギーとして脂肪をたっぷりと補給します。また、がん細胞は夜中に活性化するため、夕食後にMCTオイルを摂取します。無味無臭なのでコーヒーや紅茶などに入れて飲むようにします。数時間後に血中のケトン体濃度が高くなりますが、私の場合は基準値の20~30倍になります」

 サバやイワシなどに多く含まれるEPAもがん抑制効果があるといわれている。山崎さんはイワシの缶詰と経口薬で、十分な量のEPAを摂取している。がん患者の多くはビタミンDが不足しているとのデータもあり、サプリメントで補うことにした。

 この食事療法を始めて3カ月後、CT検査を受けると、肺の多発転移の多くが消失し、残っている転移もかなり縮小したという。

「思わず頬が緩んでしまいました。その後も3カ月ごとに検査を受け、肺の転移病巣は縮小と増大を繰り返したが、そのつど、理論的な療法を追加して現在の『がん共存療法』に辿り着きました。ここ1年半は大きさがまったく変わっていません。がんとうまく共存できており、抗がん剤の延命効果と比べても遜色ない効果といえます」

 山崎さんが重要なポイントとして挙げるのが、糖尿病治療薬のメトホルミンだ。がん細胞を増殖させる働きがあるインスリンの分泌を抑制するために食事療法に取り入れたのだが、実はメトホルミンには抗がん効果があることが指摘されている。現在、国立がん研究センターなどが難治の脳腫瘍である膠芽腫に対し、抗がん剤治療にメトホルミンを併用した臨床試験を実施しているほどだ。

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