ジュリアード・オーケストラのツアー先のフィンランドで。現地の音大生と合同コンサートも行った(廣津留さん提供)
ジュリアード・オーケストラのツアー先のフィンランドで。現地の音大生と合同コンサートも行った(廣津留さん提供)

「ジュリアードでの生活もハーバード時代と変わらずハードスケジュールでした。私は練習室にこもることもあれば、学内オーケストラや自分の弦楽カルテットなどで活動することもあって、私生活はほぼありませんでしたね。ニューヨークで借りたアパートメントから通っていましたが、早朝からオーケストラのリハーサル。日中は必修の音楽史や音楽理論などの授業を受け、加えて個人レッスンもありますし、副科でピアノと古楽バイオリンを履修していたので、それもこなしていました。夜にはカルテットの練習があり、スケジュールはびっしりです。

 また、私が入学した頃から、ジュリアードではセルフプロデュースの考え方を学ぶアントレプレナー系の授業や、“エレベーターピッチ”と呼ばれる短時間でのプレゼンテーションの方法、レジュメやプロフィールの書き方など、音楽以外の授業も増えていました。プロの演奏家として生きていくために、自分をどうやってブランディングするかを考えるべきという、学校側からのメッセージなのだと思います」

 ただ、入学当初は学生の雰囲気の違いに少し戸惑ったという廣津留さん。より良い演奏のためにも、カルテットのメンバーとは積極的にコミュニケーションを重ねた。

「学生や学内の雰囲気はハーバードとは全然違いました。ハーバードではそれぞれが異なる専門分野を学んでいることもあって、学生同士で刺激を受け合っている印象でしたが、ジュリアードは音楽に特化しているためか、お互いの対抗意識が強いように感じました。ふだんは一緒に授業を受けている友人も、オーディションではみんなライバル。音楽家として生きていけるかどうかは勝負の世界ですから、常にピリッとした空気感がありましたね。

 ジュリアードでは弦楽カルテット(四重奏団)を組んでいました。普段はとても仲良しなのですが、4人それぞれの考えやプライドもありますから、リハーサルになると意見が対立したり、それによってチームのモチベーションが下がってしまうこともありました。そんなとき私がよくしていたのは、リハーサルの合間を縫って、4人が大好きな生牡蠣を食べにオイスターバーに行くこと。リーダーシップを発揮して方向性を決定したり、本音で語り合うことも大事ですが、好きなものを食べているときは不思議と心が開くものです。食べ物の力は偉大だなと実感することが多かったですね」

(構成/奧田高大)

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