広島商戦での頭部死球の影響で本調子ではなかった水野が3本塁打を被弾。自慢の打線も1年生・桑田真澄の打たせて取る術中にはまり、3併殺を喫するという、まさかの完敗だった。
「3連覇は無理だと思っていた」と結果を素直に受け止めた蔦文也監督だったが、勝ち進んでいる最中にも「この子らの人生のためには、負けたほうがいい。それも水野が打たれる形で……」と口にしていた。すんなり3連覇を達成すれば、驕りが生まれることを心配していたのだ。
「高校野球は勝つことだけがすべてではない」ことを実感させられる言葉だ。
あくまで結果論だが、大阪桐蔭も過去に4連覇を逃している。
史上初の2度目の春夏連覇を目指した17年夏の3回戦、仙台育英戦、勝利寸前の9回2死から遊ゴロの送球を受けた一塁手の足がベースから離れてセーフになり、直後、悪夢の逆転サヨナラ負けを喫した。
もし、この試合に勝利し、最終的に春夏連覇を達成していれば、翌18年と併せて4季連続Vが実現していたことになる。
だが、99パーセント勝利を手中にした試合で、ミスの怖さを心底思い知らされた経験が、根尾昂(中日)ら下級生が多く残った新チームのさらなるレベルアップをもたらし、藤浪世代以来2度目の連覇につながったとみることもできる。
「史上最強」の呼び声も高い今年の大阪桐蔭だが、西谷浩一監督は「(最強)そんなつもりはない」と一戦必勝を期しているという。
まずは激戦区・大阪を勝ち抜くことがファーストステップになる。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。