菅首相への直接批判は避けつつも、「『国民政党』であったはずの自民党に声が届いていないと、国民が感じている」と語ったのは、菅氏は国民政党を標榜する党のリーダーにふさわしくない、という痛烈な批判だった。

「自民党が多様性、そして包容力を持つ国民政党であり続けられるように、党の役員に中堅若手を大胆に登用し、そして自民党を若返らせます」とも強調した。岸田氏にとって、国民政党とは「多様性と包容力を持つ政党」という意味を持つというわけだ。

■敵と味方を峻別した安倍・菅政権

 岸田氏は国民政党という言葉を、菅氏の政治への批判として使ったが、「多様性と包容力」というキーワードに着目すれば、安倍氏の政権運営に対する疑義であったとも言える。

 第2次安倍政権は、「安倍1強」と呼ばれ、安倍首相に近い側近が力を持ち、安倍首相の意向に沿った考え方が党内の主流になった。主流という以上に、党内での唯一の「正論」だったかもしれない。党内から多様性は失われていった。また、安倍氏は敵と味方を明確に峻別し、政権に批判的な野党やメディアは言わずもがな、党内でも石破茂氏のような政敵を壊滅させようと動いた。包容力に乏しい政治であり、側近議員でさえも「敵を生かすことによって自分を高めるという発想がなかった」と顔をしかめた。

 2017年7月の東京都議選での街頭演説で、自らを批判する聴衆に対して「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言い放った姿は、政治家のみならず有権者をも分断し、国民を包摂するべき政治リーダーとしての役割を放棄したようでもあった。

 菅氏も敵と味方を峻別した。官房長官時代の記者会見では、批判的な質問を重ねる東京新聞記者から会見の意義を問われると、「あなたに答える必要はありません」とにべもなく答弁を拒否。沖縄の辺野古基地問題では、地元が移設拒否の意思を選挙で繰り返し示しても、工事を強行し続けた。首相主導のトップダウンの手法にこだわり、「仕事をやっていれば、そのうち国民は分かってくれる」とばかりに、丁寧な説明に努めず、国民との意識の乖離が広がった。「国民政党」を名乗る党のトップとは、到底言えなかった。

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