第2次安倍政権が発足し、自民党内に国家を優先する考えが急速に広まった。一つには、安倍首相の考えが背景にあっただろう。安倍自民党は、国政選挙の際には、安全保障など国家の権限を強める政策については声を潜め、経済政策アベノミクスを金看板として戦った。選挙では有権者に受けのいい経済政策を掲げる一方、首相として本来行いたいが評判の悪い政策は、国政選挙が終わり、次の選挙まで一定の期間がある「選間期」で進めたのだ。

 朝日新聞取材班『この国を揺るがす男』は、アベノミクスの「三本の矢」が生まれた直接のきっかけは中国の台頭にあったとしている。同書は、日本経済がデフレに陥らずに1991年から名目4%の成長を続けていれば、2010年段階の経済規模はその年の2倍に達し、日本のGDPは中国に追い抜かれていなかった、とする学者の資料に、野党時代の安倍氏が、強い関心を示したことを紹介。

 その上で、同書は「『強い日本』を取り戻すには、まず『強い経済』。安倍にとって、経済政策は『日本の誇り』を取り戻すための手段となっていた」と書いた。つまり、安倍首相の政治の「目的」は、あくまで中国に対抗するための国家の強化であり、アベノミクスによる経済の再興は、特定秘密保護法や集団的自衛権の一部行使などと同じく、国を強くする「手段」に過ぎないということだろう。経済成長のために安倍氏が旗を振った賃上げも、国民の生活向上というより、国家のため、という意味が強かったのだ。

《安倍1強時代をはじめ、自民党が強者であり続ける源泉は何か。『自民党の魔力』(朝日新書)で詳述している》

暮らしとモノ班 for promotion
「更年期退職」が社会問題に。快適に過ごすためのフェムテックグッズ