「それって、結婚っていえるの?」と思うかもしれません。ただ、自分がいいと思う制度がなければ、自分でつくってしまうというのが実存主義なのです。なんだか究極のわがままに聞こえますが、みんな、心の底ではそうした生き方に憧れていたんでしょうね。

 だからサルトルは、男女問わずモテモテだったし、人々から慕われていたのです。彼の葬儀には、なんと5万人もの人たちが駆けつけたというのですから。それは単に彼が20世紀の知のスターだったからだけではなく、自分で人生を切りひらくのはそう簡単じゃないと、みんなわかっていたからなんでしょうね。サルトルの人気は、そんな彼への尊敬の表れでもあったように思えてなりません。

 もしかして、ペーパーナイフも「人間はいいなー」「悩めるもんなー」って思っているかもしれません。そうなんです。悩みがあるだけ幸せなんですよね。それは選択肢があるってことですから。そうやって人生を選びながら生きていくのが人間の特徴なんです。物は生まれた時から死ぬまで同じ姿ですよ。役割も変わりません。どうですか? 悩めることが幸せに思えてきませんか?

ジャン=ポール・サルトル/1905~1980年。『存在と無』『嘔吐』などで知られるフランスの哲学者。作家、劇作家、活動家としても活躍し、実存主義ブームを巻き起こした

(哲学者 小川仁志)

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