ヤングケアラーで多いのは一人親家庭で、親が疾病障害を抱え、家事ができないケースだという。その場合、市はどのような支援を行っているのだろうか?
「主にお母さんなんですが、具合が悪くても医療機関にかからず、家にこもっているケースが多いんです。病気で家事ができないので、それを子どもたちが担っている。そのような場合、通院を促して療養に専念してもらいます。場合によってはわれわれの相談員が病院に同行する支援も行っています。病状を一緒に聞いて、それをお母さんに説明して納得してもらう。子どもたちにも伝える。服薬管理も大切です。そうすることによってお母さんを安定した状態に落ち着かせる」
■子どものケアは報酬にならず
一方、上田さんは「ヤングケアラーが担っているケアをゼロにすることは非常に難しい。現在の行政サービスでは限界がある」とも言う。
例えば、介護保険制度では要介護(要支援)状態の人が訪問介護を受ける場合、ホームヘルパーは利用者の食事の用意はできても、利用者の子どもに食事を提供することはできない。衣服などの洗濯もそうだ。これではヤングケアラーはなくならない。
また、「国の支援マニュアルでは、ケアマネジャーと連携してください、と言っているのに、報酬に結びつく評価の項目には入っていないんです。非常にちぐはぐです」と上田さんは不満を漏らす。
ケアマネジャーがヤングケアラー支援の会議に出席することも報酬評価の対象にはなっておらず、実際に会議への出席を断られたこともあるという。
「神戸市から国へ改善を要望しているのですが、あまりよい返事が得られていません。国がヤングケアラー支援を推進するというのであれば、そこはどうしても認めてほしい」
■先生の救いの言葉
最後に上田さんは、子どもと接する先生の言葉がヤングケアラーの気持ちを和らげる、と言い、こんな元ヤングケアラーの体験談を話してくれた。
「先生に相談したとき、ただひと言、『休めてるか?』という声がけがうれしかったというんです。『頑張れよ』、じゃないんです。あなたの置かれている状況はよくわかった、無理はしないでほしい、という気持ちが伝わってきて、とても救われたそうです。対照的に、宿題ができなかったときに『家で家族の世話をしている』と先生に言ったら、『言い訳するな』と怒られたという元ヤングケアラーもいます。もう二度と先生には言うまい、と思ったそうです。先生が本当に忙しいのはわかります。でも、先生の対応は、ヤングケアラーたちにとってはものすごく大きいことを忘れないでほしい」
ヤングケアラーは大昔から存在していたにもかかわらず、この問題は長い間、表面化してこなかった。頻繁にマスコミに取り上げられるようになり、さまざまな団体が支援に乗り出すようになったのはごく最近のことだ。根本的な問題解決は難しいのが現状だが、大切なのは息の長い取り組みと継続的な支援だろう。(AERA dot.編集部・米倉昭仁)