■個人情報保護法の壁
そこで神戸市がヤングケアラーを見つけ出すために力を入れているのは学校との連携だ。福祉局政策課の上田智也担当課長はこう話す。
「子どもたちが声を上げるのは難しいので、身近にいる学校の先生に気づいてもらうことが彼らを見つける一番のポイントだと考えています。例えば、宿題を忘れてくる、遅刻する、居眠りをするとか。家庭訪問をした際に気づくこともあります」
これまでの実例では、学校からの情報はスクールソーシャルワーカーを介して伝えられることが多かった。ところが、その後の対応については「非常に難しい」と、上田さんは打ち明ける。立ちはだかるのは個人情報保護法の壁だ。
現場のスクールソーシャルワーカーがヤングケアラーらしき児童・生徒を見つけたとしても、市がさらに詳しい情報を尋ねると、学校からは「当事者の同意がないから言えません」と返答されてしまう。保護者の同意なしに個人名や家庭環境などを明かすわけにはいかない、という“法律の壁”が立ちはだかる。これでは十分に情報を共有することができないし、当事者と接触することもできない。
「児童虐待防止法上のネグレクトとして判断すれば、当事者の同意なしに情報共有ができます。ところがヤングケアラーについては情報を共有する根拠となる法令がない。ヤングケアラーに関する個人情報の取り扱いについて国の指針はありますが、とてもあいまいなものなので、通報があっても対応は非常にまどろっこしいものになる。仕方がないので、先生を介して保護者に公的な支援をお勧めする、というアドバイスをするだけにとどまっています」
■多いのは一人親家庭
支援対象となった69件のうち、「家族が家族の世話をするのは当たり前」「他人を家に入れたくない」といった理由で、当事者や家族と面会できたのは半数以下の25件だった。
「保護者からすれば、家族が力を合わせてやっているのだから、行政に介入されたり、相談したりする問題ではない、という考えの方が多いんです。そのなかで、家族のケアをしている子どもはSOSを出すことができずに育っていく」