ヤングケアラーは「発見」が最も難しいとされる。写真はイメージ(PIXTA)
ヤングケアラーは「発見」が最も難しいとされる。写真はイメージ(PIXTA)
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 本来は大人が担う家事や家族の世話などを日常的に行う子どもを指す「ヤングケアラー」。年齢に見合わない重い責任や負担を負うことでメンタルヘルスや教育への悪影響が懸念されている。そのため2020年度、厚生労働省は文部科学省と連携して初の全国調査を実施した。すると、中学2年生の5.7%、全日制高校2年生の4.1%がヤングケアラーであることが浮かび上がった。この調査結果などを踏まえて今年3月、国は「多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル」を整備。各自治体でも支援の動きが本格化している。一方、全国に先駆けてヤングケアラー相談窓口を設けた神戸市に取材すると、法令や制度の壁に阻まれ、支援マニュアルが十分に機能しない現状も見えてきた。

【ヤングケアラーだった人たちが交流する様子はこちら】

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 3年前、神戸市で悲劇が起こった。

 認知症の祖母と2人暮らしで介護していた孫の女性によって殺害された。十分な支援が得られず、心身ともに追い込まれ、当時21歳のケアラーが引き起こした事件だった。

 事件の深刻な背景を知った神戸市の久元喜造市長はヤングケアラー支援のプロジェクトチームを立ち上げ、昨年6月、全国初の「こども・若者ケアラー相談・支援窓口」を開設した。

 その後、1年間に寄せられた相談件数は176件。匿名や市外からの連絡などを除いた69件について支援が行われた。そのうち、小中学生がヤングケアラーのケースは39件で、半数以上を占めた。

 一方、当事者からの相談は6件だけ。高校生が1人、ほかは社会人だった。つまり、もっとも支援を必要とするはずの小中学生本人からの相談はゼロだったのだ。小中学生で支援に結びついた相談のうち約4割は学校から寄せられたものだった。

 実は、ヤングケアラーを支援する際の最大の課題は「当事者を見つけること」の難しさにある。

■自分の中で無理やり消化していた

 ここで一人の元ヤングケアラーを紹介したい。神戸市職員の宮沢直己さん(40代・仮名)は子どものころ、難病の妹をケアしていたときの苦しい胸の内を周囲に打ち明けられなかった。いま、その体験を同市のヤングケアラーの交流と情報交換の場「ふうのひろば」で語っている。

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つらかったのは周囲に打ち明けられなかったこと