大川医師の性外来を訪れる女性の多くが、体の問題はないのに挿入を伴う性交渉ができない“挿入障害”を抱えている。妊娠したくても挿入できないことが切実な問題となって駆け込まれる方がほとんどだという。
「挿入障害は、性器を含めたスキンシップは問題なくできるのに、膣に触れられそうになると突然体をこわばらせてしまうような状態です。基本的に心因性の疾患になります」(大川医師)
相談者に共通している不安が、「処女膜は最初の性交渉で破れ、血が出る」という“処女膜神話”への過度なとらわれだという。これが「性交渉=出血するほどの痛みを伴う」という思い込みを生み、女性に強い恐怖感を抱かせていることが多い。その結果、性交渉しようとすると骨盤底筋、特に膣周囲の筋肉を、本人の意思とは無関係に収縮させ、膣を閉じてしまうのだという。
「無意識の力というのは強いもので、女性が仮に“力ずくで挿入して欲しい”と思っても、実際は足を閉じて全身で抵抗するので挿入できません」(大川医師)
「性交ができない」という性機能障害における治療の柱の一つが、不安や緊張、恐怖によって抑制された性反応を取り戻す心理的なものになる。性行為の際の体の反応や、不安や恐怖が挿入を妨げる仕組みについても、医師から説明を受ける。加えて、個々の症状に合わせて苦手な行為を少しずつ練習し、抵抗感を減らす行動療法を行う。挿入障害の場合には、挿入への過度な恐怖を取り除くため、挿入の練習を段階的に行い、徐々に慣らしていく。
「行動療法では、まずは自分の指を膣に入れてみることから始めます。初めは膣の入り口に触れただけで、痛いと手を離してしまう人もいますが、落ち着いて感覚に集中すると“痛いのではなく、違和感だ”と気づく。違和感を我慢して練習していくうちに、指を通じて膣の構造を感じ取れるようになる」(大川医師)
性機能障害は、不安や緊張が引き起こすことが多く、体に意識を向けてリラックスすることも重要だ。ただ「リラックスしなくては」という思いがかえって緊張させる場合もある。緊張感が拭えない人には、「手や足が重い、温かい」など副交感神経が優位のリラックス状態を思い浮かべ、意識を体に向ける「自律訓練法」を取り入れることもある。