千村医師のクリニックでは、挿入障害の患者が訪れた場合、膣の萎縮や閉塞を緩和させる目的の「膣ダイレーター」を用いて、自宅で練習する指導なども行っている。また子宮頸癌検診や膣内部の視診などにも用いられる「膣鏡」と呼ばれる診察器具の小さなサイズを用いて、診察の中で少しずつ慣らしていくこともあるそうだ。千村医師は言う。
「性交渉が毎回できることが当たり前ではないという認識を持つことも大事。“子どもを作るために性交できるようにならないといけない”と思うと、余計に追い詰められかねません」
晩婚化が進む中、性交実現のために要する期間があまりに長期化すると、妊娠そのものが難しくなってしまいかねない。前出の大川医師の性外来では、治療を一年で “卒業”する人もいれば、10年にわたって通っている人もいるという。そうした中で、「性交ができるかどうかより、妊娠を優先したい」と、人工授精や体外受精など、性交によらない妊娠の技術を持つ不妊治療クリニックに切り替える人も少なくない。
「性外来を受診する人が、内診ができる程度になると、性交より妊娠を優先する人も多い。その時に、性外来も並行して続けたいという希望を持つ人もいますが、原則として並行しての治療はお勧めしていません。不妊治療はかなり集中力を要しますし、性外来での治療も自己との闘いで神経を使うからです」(大川医師)
生殖医療が発達し、性交渉がなくても妊娠に至るケースが増えている現在。晩婚化が進む中で、妊娠という目的のみを考えると、性交渉ができる・できないに関わらず、一足飛びで進みたくなる気持ちも当然理解できる。
その一方で、性の診療という分野からは、「性交=妊娠のためだけのもの」という流れになりすぎていないかと懸念する声も聞かれる。この葛藤は、“子どもは自然に授かりたい”という自然派信仰的な思いと、生殖医療である不妊治療との間に揺れる、当事者のせめぎ合いにも通ずるものがある。そのせめぎ合いを抱えるのは、女性のみならず男性も然りで――。(次の記事に続く)
前編はこちら→【「妊活したいけど1回も性交していない……」結婚6年目夫婦の他人に言えない深い悩み】