そのバレンティンは、2018、19年には村上と一緒にプレーしている。2018年はルーキーだった村上がシーズンの大半をファームで過ごしたため、接点はほとんどなかったものの、翌2019年は開幕から共にラインナップに名を連ねた。

 シーズン開幕から1カ月ほどが過ぎた頃。主に7番打者として打率は2割台前半ながら、既に5本のアーチを架けていた村上についてバレンティンに聞いてみると。「将来は間違いなくオレを超える選手になる。打率はもちろん、パワーでもオレ以上の選手になるよ」と言う。直後にそばを通りかかった村上にその言葉を伝えると、謙遜するでもなく、ちょっとだけ笑みを浮かべて「超えられるように頑張ります!」と返してきたのが彼らしかった。

 当時は19歳だった村上も今や22歳。押しも押されもせぬ不動の4番バッターとして「村神様(むらかみさま)」の異名を取り、バレンティンにもできなかった三冠王に挑戦するまでになった。もっとも球団の日本人最多記録に並ぶシーズン44号に到達し、打率でもトップに立った8月20日の中日戦(バンテリンドーム)後のヒーローインタビューで「個人の成績としてはすごくいい位置にいるので、狙えるもの(タイトル)は狙いたいなと思います」としながらも、「まずはやっぱりチームの優勝が第一なので、とにかく優勝できるように頑張ります」と語ったように、最大の目標はなんといっても優勝である。

 7月2日に史上最速でマジックナンバーを点灯させ、その時点で2位に13.5ゲーム差を付けて首位を独走していたヤクルトも、ここへ来てDeNAの猛追に遭い、4ゲーム差まで詰め寄られている。8月26日からはそのDeNAの本拠地・横浜に乗り込んでの3連戦。両者の対戦は9月にも5試合あり“天王山”と呼ぶのはまだ早いかもしれないが、非常に大事なシリーズになるのは間違いない。

 ちなみに過去の三冠王のうち、中島、野村、王(1973年)、ブーマー、バース(1985年)はチームを優勝に導いている(2004年のダイエーは勝率1位だが、プレーオフ敗退のため当時の規定により2位)。三冠王に輝き、しかもチームも優勝となれば、バットマンとしてこれ以上の喜びはないだろう。

 それは見る側にとっても同じこと。昨年の開幕前、筆者はこの『燕軍戦記』で「史上最年少のトリプルクラウンとして、ヤクルトを優勝に導いた村上が、まさに「村神様」として崇め奉られる──」と、シーズンに向けての夢をつづった。冒頭部分のみかなわなかったその「夢」は、今年こそ丸ごと現実となるだろうか。(文中の今季成績等は全て8月24日終了時点)

(文・菊田康彦)

●プロフィール
菊田康彦
1966年生まれ。静岡県出身。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身。2004~08年『スカパーMLBライブ』、16~17年『スポナビライブMLB』出演。プロ野球は10年からヤクルトの取材を続けている。

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