「今年は打率を上げたいっていうのはキャンプの時から言ってたのでね、広角に打っていくんだろうなっていうふうには思ってたんだけれども、3割3分近く打ってるわけだからね。まだまだもっと上のことを彼は見てると思うんだけども、今年は非常にいい成長をしてるんじゃないかなと思いますね」
そう語るのは巡回コーチ、打撃コーチとして村上をルーキーの頃から見てきた杉村繁コーチである。村上自身も「コースに逆らわないようにっていうバッティングは、意識して打席に立ってます」と話していて、それが打率アップの1つの要因といえそうだ。
現在、村上は本塁打で2位の岡本と丸佳浩(巨人)に21本差、打点では2位の大山悠輔(阪神)に38点もの大差をつけており、この2部門のタイトルはもう“当確”と言っていい。ただし、打率は2位の佐野恵太(DeNA)と6厘差で、三冠王は首位打者を獲れるかどうかにかかっている。
相手は2020年の首位打者の佐野だけではない。打率.321で3位につけているのは、新型コロナウイルスの陽性判定を受けて離脱し、ファームで実戦復帰したばかりの大島洋平(中日)。打席が少ない分、6安打した8月3日のヤクルト戦(神宮)のような固め打ちでもすれば、一気に打率が跳ね上がる可能性を秘めている。打率.317で4位の宮崎敏郎(DeNA)も2017年に首位打者の経験があり、セ・リーグのリーディングヒッターは村上も含めたこの4人の争いになりそうだ。
ヤクルトでは過去に三冠王となった選手はいないが、これに限りなく近づいたのが2013年のウラディミール・バレンティンだ。この年、シーズン55本塁打の日本記録を49年ぶりに更新したバレンティンは、残り10試合となった9月26日の時点で打率(.333)、本塁打(58)でいずれもリーグ1位。打点(125)もトップのトニ・ブランコ(DeNA)に1点差まで迫っていた。
ところが9月29、30日のヤクルトとの直接対決で7打数4安打、7打点をマークしてバレンティンに5打点差をつけたブランコは、10月3日の阪神戦(横浜)で3安打して打率を.334まで上げ、こちらでもトップに立つ。バレンティンも10月8日のシーズン最終戦(対巨人、東京ドーム)で2打数2安打、6打点を挙げれば三冠王の可能性があったのだが、第1打席で押し出し四球を選んで打点を1つ増やした後、第2打席はセカンドゴロ。そこで白旗を揚げて試合から退き、三冠王は幻に終わった。