
劇作家・寺山修司が構成を担当し、日本に関する挑発的な質問を街頭で矢継ぎ早に投げかけて物議を醸したドキュメンタリー番組「日の丸」。放送から55年、今度は佐井大紀監督自らが街頭に立ち、同様のインタビューを実施する──。連載「シネマ×SDGs」の42回目は、日本や日本人を考えずにはいられないドキュメンタリー「日の丸~寺山修司40年目の挑発~」の佐井大紀監督に話を聞いた。

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2017年にTBSの新人研修で、寺山修司が構成を担当したドキュメンタリー番組「日の丸」(1967年)を見て衝撃を受けました。21年に五輪があり、これから大阪・関西万博もある。日本が今置かれている状況が67年に近いと思ったんですね。当時と同じ質問をして対比させたら日本や日本人について何かが浮かび上がってくるのではないかと考えました。

映画を撮るにあたって、これがどういうドキュメンタリーなのか、そこはきちんと描きたいと思っていました。それを描かなかったらただ不愉快な投げっぱなしの映像になってしまう。原宿や新宿、浅草などで年齢性別など分け隔てなく、片っ端から200人くらいの人に声をかけたと思いますが、映像にする許可を得られたのは30~40人くらい。「(日本について)あまり考えたことがない」という人が多かったですね。日本人って今も変わらないんだなと思いました。今回、情念の反動化への挑戦というテーマを掲げていたんですが、日本人は思考停止のようになっている。これが国民性なのかもしれませんが……。編集では、思考が停止してしまうくらい概念的な話なので、思考停止にならないような道筋を作ることをすごく考えました。

今回の手法では、日本人というものをとらえられませんでした。そもそもとらえようとするものではなかったのかもしれない。国家にあるのは「私」の主観だけ。ただ、この映画を撮ったことで寺山修司の本質に触れられた気がします。「日の丸」をつくったことで彼のその後のキャリアがあるのだろうと思えた。僕にとっても、世の中をフィクションによって表現しようとする眼差しの人間が、社会をどう切り取るか。寺山が今後の参考になると思っています。(取材/文・坂口さゆり)

※AERA 2023年3月6日号

