■日本に帰れないかも
ソマリアではパスポートと現金5000ドルを強奪された。
「ちょっと油断していたら突然、襲われた。パスポートを盗まれたのは初めてだったんですけれど、もう、ヤバすぎました」
なぜ、それほど小澤さんは動揺したのか?
訪ねたのはソマリア内の未承認国家「ソマリランド」だった(国際的にはソマリアの自治区と認識されている)。未承認国家なので、日本大使館も領事館もない。パスポートの再発行どころか、出国さえも危うかった。
「未承認国家に行くって、不安じゃないですか。お金がいくらかかるか、お金を下ろせるか、クレジットカードは使えるか、全部不安で、3週間で5000ドルを持っていった。ホテルに置いておくのも心配で、リュックに入れて持ち歩いた。それが裏目に出た」
14歳くらいの2人の少年から撮影をせがまれた。「OK! カシャ。で、バイバイと言おうとしたら、『写真を見せてよ』と言われた」。2人はそばまで来ると、いきなり小澤さんが背負っていたバッグを開け、パスポートと現金の入ったポーチを奪った。
容疑者の顔はばっちり撮影している。警察に被害を訴え出た。
「結局、彼らはぼくから盗んだ金で買った車で逃げていたんですけれど、盗難から1週間後、事故を起こして大破して、警察に捕まった」
小澤さんは盗まれたものを返還してもらう手続きをとり、裁判を起こした。
「最終的にパスポートだけは戻ってきましたけれど、もし犯人がパスポートを捨てていたら、日本に帰れなかったかもしれない。お金では解決できない問題でしたから」
■コンゴもこりごり
赤道11カ国の旅の最後はコンゴ共和国だった。
「ちなみに、コンゴにもう1回行くかって言われても、行きたくないないですね。もう『針のむしろ』でしたから。どこを歩いていても『誰に許可を取って、撮っているんだ? 金を出せ』。それが、ありとあらゆる人からなんですよ。お金を出せば撮れるのかもしれないけれど、ぼくはそういうポリシーではないから、ものすごく撮りにくかった」
それにしても大変な話ばかりである。いい思い出はあったのか?
すると、意外にも「ものすごくいっぱいあります。いいことしかないです(笑)。つらいことがあったぶん、ささやかなことが心にしみた」。
ケニアで留置場に入れられたとき、中の人に言葉を教えてもらった。ガボンの小さな町で出会った人に家に招待され、妻や子どもを撮らせてもらった。そんなやりとりがとてもあたたかいものに感じられた。
「そこで暮らしている人々の日常にすごくドラマがあって、それがぼくにとっては一番大事に思えた。すごい場所に行って決定的瞬間を撮ったのとは対極の写真。何でもない日常の、折々の面白さみたいなところにひかれたんです」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】小澤太一写真展「赤道白書」
キヤノンギャラリー銀座 9月6日~9月17日
キヤノンギャラリー大阪 11月29日~12月10日