バッキンガム宮殿前の柵に掲げられたエリザベス女王の訃報(2022年9月9日)
バッキンガム宮殿前の柵に掲げられたエリザベス女王の訃報(2022年9月9日)

 私はこのとき、英国で暮らしており、当時の状況を肌で感じていました。ダイアナ元妃の評価は、英国民の属する階級によって真逆でした。

 バッキンガム宮殿に連日長蛇の列をつくり花束を掲げたのは、主に、サッチャー革命で「置き去り」にされた貧困層の人々でした。

 その半面、上流階級からの評価は低かったのです。

 エイズ患者のお見舞いや対人地雷禁止キャンペーン、チャリティーに熱心だったダイアナ元妃は、それを国民の目に映る形で活動しました。もともと王室は、ビクトリア時代から慈善活動に熱心でした。しかし、国民にあえてアピールせずに慎ましく行うのが上流階級のあるべき姿でした。

 こうした教育を受けていなかったダイアナ元妃は、自分のやり方で自由に行ったわけです。テレビを通じて、自分が脚光を浴びる形で、活動を発信する。時代に合ったやり方でしたが、「王族は何も慈善活動をしていない」と国民の誤解を招く結果となり、上流階級からの反発を受けたわけです。

 この一件で、女王は国民の信頼を得るためには、王室も理解される努力をしなければいけないと痛感したのでしょう。女王は、広報活動に力を入れます。

 ダイアナ事件の年に、王室のホームページ「ブリティッシュ・モナーキー」を設置します。評判の落ちたチャールズ皇太子の活動を知ってもらうために、彼のパンフレットを作ります。チャールズ皇太子がパトロンを務める350団体の全てのリストを全部掲載し、2004年からは、活動の年間収支を国民に報告するようになりました。

 TwitterやYouTube、InstagramなどSNSを通じた広報にもいち早く取り組みました。 高齢になってもユーモアを忘れない姿勢は、素晴らしかった。

 2012年、ロンドン五輪開会式では、上空のヘリから「007」のジェームズ・ボンドと一緒に「女王」に扮した二人がパラシュートで降下。すると、スタジアムにビデオと同じドレスを着た女王本人が登場。という、演出で世界中を沸かせた。

 そして今年7月、即位70年を祝う「プラチナ・ジュビリー」の行事では、童話ののパディントンと共演。昔から謎だったハンドバッグの中に何が入っているか見せ合うなど、ユーモアにあふれた姿で国民をびっくりさせます。ロンドン五輪の際は孫らの勧めがありましたが、パディントンについては孫にも秘密でした。チャールズ皇太子もみんなびっくりして、大笑いとなった。

 近年では、女王の次男のアンドリュー王子のスキャンダルや、ハリー王子とメーガン夫人の「王室離脱」といったスキャンダルに悩まされました。

 女王がとった対応。それは、それぞれ軍の名誉称号や慈善団体の名誉職の地位返上でした。女王のその毅然とした態度に、異論を唱える声は聞こえてきませんでした。女王の献身を国民が理解していたからです。

 2020年に、ジョンソン首相やチャールズ皇太子が新型コロナに感染したときも、女王はテレビを通じて国民に団結を訴えました。世界大戦後の混乱の傷の残る時代を乗り越え、70年の治世をまっとうして王室を存続させた。偉大な君主でした。おつかれさまでした、と言いたい。

(聞き手/AERA dot.編集部・永井貴子)

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