「唯一残るのは、暴力に反対する意思を示すという理由です。現在、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で多くの犠牲が出ており、核戦争も示唆されている。個人の国葬ではなく、そういったすべての暴力に倒れた人たちを悼み、暴力に反対することを国民の総意として強く打ち出すなら、野党も反対しないだろうし、海外からも弔問に来る意味がある。これができれば及第点にやっと手が届く50点というところでしょうか」(白鳥教授)
「概算ではあるものの16億6千万円という国葬にかかる予算の全体像を示したのは悪くなかった」と一定の評価をするのは一橋大学の佐藤主光教授(財政学・公共経済学)だ。
「当初は2億5千万円(会場費)だった予算に、後になって警備費などを追加したことで、野党からは『小出しにした』と批判されているが、日本の予算は省庁別で縦割りになっているため、内閣府の予備費から会場費、警察庁と外務省の予算から警備費を割り振り、発表に時間差が出てしまったということだと思う。ここは岸田首相だけを責められない」と理解を示す一方、来日する要人の人数によってさらに増額されていくことも考えられ、「その都度、情報をアップデートしていくべき」とした。
はじき出した点数は「65点」。そこまで点数が上がらなかった理由は、成果について示されていないことと、国民的な議論にできなかったことだ。
「財政学者として気になっているのは会場費の2億5千万円が予備費から出されているということ。予備費というのは本来、自然災害などが起きたときの支援など予見できない経費を賄うためのものです。国葬は内閣が自分で決めたことですから、自然災害と同一視はできいません。そもそも今年度はコロナ対策として5兆円が充てられるはずだったものが、物価高騰対策など、どんどん対象が拡大されています。国会の了解を経ない予算だからこそ、予備費の使い方についてはきちんと説明責任を果たすべき。特に国民的な関心が高い国葬についてはメディアを通してでもしっかり議論をすべきです」
議論の素地として必要なのが「比較対象を示した説明」だという。
「国の予算は100兆円を超え、予備費は5兆円。そのうち国葬に充てられる16億6千万円というのは決して大きなパーツではありません。ただ、金額だけを示されても、それが高いのか安いのか国民は感覚的に理解し議論することができません。例えば、警備費については、ハリス副大統領が来日する時の費用を示し、これが何人集まるとこの規模になると説明する。会場費の2億5千万円は天皇陛下が参加され、同じ日本武道館で毎年行われてている全国戦没者追悼式と比べるなどすれば、感情的にならずに議論ができる。それは岸田首相にとっても良いことだと思います」