この背景には、レッドソックスが18年のワールドシリーズ制覇から下降線に入り、チーム再建が必要な時期が迫っていたことがある。そのためには高額年俸選手の整理が必要であり、ドジャースが不良債権化しつつあったサイ・ヤング賞左腕デービッド・プライスの年俸の一部も含めた引き取り案をベッツのトレードに絡めたことで、レッドソックスは抗えなかったというわけだ。

 想像してみてほしい。相次ぐトレード失敗でマイナーの有望株も払底しているエンゼルスが、7年総額2億4500万ドルの契約をあと4年も残しながら相次ぐ故障で戦力となり得ていないアンソニー・レンドン三塁手について「大谷との抱き合わせなら引き取ります。もちろん複数の若手有望株も差し上げます」と提案されたら、大谷放出に傾く可能性はゼロではないと思わないだろうか。つまりこれが、大谷放出への現実的なロジックだ。

 一方で、エンゼルスが新たに大谷と長期契約を結ぶ可能性ももちろん残されている。大物選手の調停回避からの長期契約パターンでは、最近ではメッツのサイ・ヤング賞右腕ジェイコブ・デグロム投手の例がある。

 デグロムは2018年に10勝9敗ながら防御率1.70、269奪三振が評価されてサイ・ヤング賞を獲得。そのオフは年俸調停の権利を持っていたが、年明けの19年1月にメッツと1700万ドルの1年契約を結んだ。

 しかしこれが調停回避の“時間稼ぎ”であることは明白だった。実際に、デグロムとメッツは同年のシーズン開幕前の3月に最長6年で総額1億7000万ドルの長期契約を結びなおした。余談だがデグロムはこの年、2年連続でサイ・ヤング賞を獲得している。

 このように調停回避の1年契約はトレードの余地を残すためとも、長期契約の布石とも取れるのだ。仮にこのオフにトレードが実現せずとも、来季が契約最終年ならばシーズン途中での放出にも動きやすく、エンゼルスとしては複数の選択肢を将来に残す一手だった。

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迫られる契約延長かトレードかの選択…