■絶対に撮ってこい
ある意味、構図はアバウトな半面、シャッターチャンスに対するこだわりには尋常でないものを感じた。
「とにかくいつも肌身離さずカメラを持っています。短パン、ランニングシャツ姿で新聞受けに行くときにもカメラを持っていく。でないと玄関を出られないんですよ。枕の横にもカメラを置いています。もう、ほとんどビョーキです」
デジタルカメラなのでバッテリーが切れてしまえば写らない。予備バッテリーを持っていくのはふつうだが、戸澤さんの場合はやはり半端ない。
「今日もフル充電した予備バッテリーを6個くらい持っています。電車の中とかで、今日は何を撮ったかなって、見るじゃないですか。そのとき、バッテリーの残量表示が一つでも欠けていると、『ああ、いかんいかん』って思いますね」
そんな習慣が身に染みついたのは朝日新聞の出版写真部時代だった。
「ぼくは写真学校を卒業後、いきなり『週刊朝日』専属のカメラマンになったんです。『撮れなかったというのは、なし。絶対にあがり(誌面で使える写真)を撮ってこい』と、たたき込まれた。それはもう本当に絶対でした」
戸澤さんが担当したのは「アクショングラビア」の撮影だった。
「写真週刊誌『FRIDAY』(講談社)『FOCUS』(新潮社)と同じように『ワンテーマ、ワンフェーズ、ワンショット』を追う事件パパラッチだったんです」
パパラッチとは、有名人をしつこく追いかけるカメラマンのことである。戸澤さんは現場に張り込み、シャッターチャンスを待った。カメラは頑丈なプロ用の機材を使用し、万が一に備えてサブ機も用意した。十分すぎるほどのフィルムやバッテリーを持っていくことも鉄則だった。
■授業で殴られる人が続出
一方、戸澤さんは「仕事の写真だけだと、自分がなくなってしまう」と言う。
「お金のためだけじゃなくて、高校のころから写真が好きだった、あのときの気持ちを忘れないように、自分の中でくすぶらせていくために、ずっとプライベートでも撮ってきた。それがスナップ写真だった」
好きな作品を尋ねると、木村伊兵衛や林忠彦、藤原新也らの人物スナップを挙げる。
「彼らの作品は当時を生きた人々の記録になっている。人間の営みの記録性に一番写真の魅力を感じてきた。それはいまでも変わりません」