撮影:戸澤裕司
撮影:戸澤裕司
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 戸澤裕司さんから完成間近の写真集を手渡されると、黒い表紙には「DESTINY」とあった。「運命」とは重々しいが、DESTINYはポジティブな意味で使われる言葉だという。

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 戸澤さんは「目ん玉のことですごく面倒なことになってしまった」と漏らす。聞くと、10年ほど前から白内障と網膜ジストロフィーを患ってきたという。ものが見えづらいだけでなく、明るいものが真っ白に映った。

「コロナ禍でどうせ暇だからと、白内障の手術をしたら、眼圧が乱高下して左目の網膜がぐちゃぐちゃになってしまった。明るさは感じるんですが、像は結ばない。つまり、失明してしまったんです」

 左目の視力を失うと、右目に過度な負担がかった。細かいものが見えなくなった。

「何回も見れば小さな文字も読めるんですが」と言い、首から下げたルーペで筆者の名刺をのぞき込んでみせる。

「見えづらさが、マズいねっていうくらい進行してしまった。このまま見えなくなったらどうしようと思うと、落ち込んだ」

撮影:戸澤裕司
撮影:戸澤裕司

■写真が撮れるのか?

 写真集のページを開くと、雨が降る東京・新宿通りを駆け抜ける自転車が写っている。男性の背中には見慣れた黒い四角いバッグが見える。飲食宅配代行サービス「ウーバーイーツ」の配達員だ。

「これはコロナ禍の東京の記録なんですが、とにかくウーバーイーツを見かけたら撮影した。不穏な空気のなか、誰もいなくなった新宿の街をウーバーだけが走り回っていた。こんな時代に新たな職業で生きていこうとする人間の象徴みたいに映った」

 塾帰りだろうか、楽しそうに友だちと話ながら歩く子どもの姿や、公園で遊ぶ子たちを写した写真もある。

「落ち込んだ気持ちを何とか自分で持ち上げないとやっていられないとき、外で懸命に働いているウーバーイーツの人とか、子どもとか、元気をもらえる人たちを軸に撮りためた。要するに、自分で自分の未来や運命を切り開く、希望につなげたかったんです」

 しかし、目がそんな状態で写真が撮れるのか?

「ええ。だから、これがいいんですよ」と言って、戸澤さんはコンパクトデジタルカメラ、リコーGR IIIを取り出す。カメラまかせで十分に撮れるという。

 カメラの上には小さなファインダーがついている。

「液晶モニターはルーペを使わないと見えないので、完全に外付けファインダーだけで撮っています」

 画面の四隅まできっちり確認することはできないが、特に問題はないという。

「スナップ写真は画面を隅から隅まで見て撮ると、写真がマンネリ化してしまう。どこまで入るか、よくわからないけれど、とにかくシャッターを切る。すると、変なものが写っている。そんな意外性を撮るにはこのカメラが一番合っているんです」

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絶対に撮ってこい