医師の働き方改革に対しては、タスクシフティングやチーム主治医制の導入による業務の軽減、労働時間の短縮による生活の質や健康の維持など、労働環境改善への期待もある。一方、人員が増えない中で労働時間を削られることへの不安も大きい。例えば、技術の習得や経験の蓄積、教育などの時間が十分に確保できないことによる医療レベルや質の低下、ただでさえ医師不足や偏在が著しい地域医療への影響、医学研究や学会活動など自己研鑽をおこなう時間の削減などだ。これらは今後の日本の医療全体に影響し、結果的には患者の不利益につながる。

週刊朝日ムック『医学部に入る2023』より
週刊朝日ムック『医学部に入る2023』より

 このような不安を抱えつつ、現場では医療の質を落とさずに、労働時間削減を含め医師の労働環境を改善するための取り組みが模索されている。

「適切なタスクシフティングによって大学や病院に拘束される時間を減らし、自分なりの自己研鑽の時間を確保できる方向に行くのが最も良いと思います。また医学生の約50%を女性が占める今、女性医師のライフサイクルに合わせて男性医師と同様のパフォーマンスができる環境を整えることが非常に重要です」(鈴木医師)

 時間外労働規制は、業務のスリムアップを図るチャンスにもなりうる。

「働き方改革は、労働時間を外科本来の業務である手術と術後の管理に集中させることができる、良い機会と捉えています。外科医は麻酔や緩和など多くの業務ができるため、範囲が広がって拘束時間が余計に長くなりがちです。法律による時間制限は、その歯止めになるでしょう。本来の業務に集中しチームでシフトを組むことで、労働環境は整うはずです」(藤井医師)

 働き方改革だけで、外科医の労働環境が今すぐ劇的に変わるとは思わない。しかし法律で定められた以上、今後、改善に向かうのは確実だろう。そして現場で長年働く医師たちは、大変さをはるかに凌駕するやりがいと魅力が外科医にはある、と口をそろえる。

■大きなやりがいと魅力キャリアの形成も

「とても厳しい手術がなんとかうまくいき、麻酔から覚めた患者さんの手を握り、うまくいきましたよ、と伝えるときの感動、その瞬間を共有できたときの喜びは何物にも代えがたいものです。確かに外科は勉強しなければならないことも、やらなければならないことも多い。でもそこには、目の前の患者さんを自分の手で救うという医療の根本があふれている。若い人にはそう伝えたいですね」(鈴木医師)

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