22年1月、日本胸部外科学会による「医師の働き方改革に関する会員の意識調査結果(回答数:1553人)」が発表された。日本胸部外科学会は、心臓血管外科や呼吸業務を削減し労働環境を整えるため、看護師や医療事務職などに可能な仕事を割り振るタスクシフティングやICT化の推進など、さまざまな取り組みが各医療機関でおこなわれている。さらに24年4月からは、医師の時間外労働規制が実施される。
日本胸部外科学会は、心臓血管外科や呼吸器外科、食道外科など、外科の中でも生命に直結し、難易度が高く高度な技術が必要とされる手術を担う外科医を中心とした学会である。
この報告で大きな危機感をもって示されたのは、外科医が増えていない現状だ。医学部の定員は、02年時点の約7600人に対し22年には約9400人と2千人ほど増えている。それに伴って各診療科の医師数も増加傾向にあり、外科以外はすべて1・0倍を上回り増加しているが、外科だけは0・98倍と減少している。
その一方で手術件数は増加し続け、1996年と2017年の比較では食道外科で約1・5倍、心臓血管外科で約2・0倍、呼吸器外科では約2・7倍にもなっている。これは高齢者の増加に加え、診断機器や技術の進歩、腹腔鏡やロボット手術といった低侵襲手術の導入などで、手術可能なケースが増えたことが理由と考えられる。20年前より少ない外科医で1・5~2・7倍の手術件数をこなしていることになり、外科医不足が問題となるのも当然といえる。
■業務の大変さと収入のバランス
なぜ外科医は増えないのだろうか。胸部外科学会の調査を主導した近畿大学医学部外科学教室上部消化管部門主任教授の安田卓司医師は、次のように話している。
「外科は手術だけしていればいいわけではなく術後の管理も重要で、また夜間の救急でも呼び出されるなど他科に比べて業務が多いのです。逆に言えばやりがいにつながる。主たる診療科別医師数の推移のですが、現在の研修医制度ではそれが十分に伝えられず大変さばかりが強調されてしまう、という一面があると思っています」