島国の日本には有人島が約400あり、そのうち約半数は瀬戸内海に集中しています。そこで瀬戸内海では、国内唯一の巡回診療船「済生丸」が島々を巡り、検診・診療を行うことで「予防医療」に尽力しています。医師と病院の偏在・不足が一般的で全国的な問題になっている今、済生丸の取り組みと課題を知ることは、これからの医療を考えるうえでヒントになるでしょう。好評発売中の週刊朝日ムック『医学部に入る2023』では、済生丸を取材し、今年初乗船した4人の医師に地域医療への思いを聞きました。
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■離島の医療課題は、一般的で全国的な問題に
瀬戸内の島々の過疎化や高齢化は日本の50年先の縮図である─―。
1961年、岡山済生会総合病院長(当時)はこう考え、島に予防医学を根付かせたいと、済生丸を発案し、誕生させた。国内唯一の巡回診療船だ。診療は岡山、広島、香川、愛媛の4県にある済生会病院の医師らが持ち回りで担当している。2021年度は199日出動し、59の島でのべ4346人を診た。累計診療者数はのべ約62万人を数える。長きにわたり瀬戸内海の島民の健康に寄与してきた。
済生丸が誕生して今年で61年。この間に院長の予想は現実となった。医師と病院の偏在・不足は離島に限らず、一般的で全国的な問題になっている。済生会西条病院循環器内科部長の金子伸吾医師は、次のように話す。
「当院の循環器内科の常勤医は私一人です。心臓病は待ったなし、心筋梗塞などの重篤な緊急疾患、通院中の重症心不全、循環器疾患を合併している手術患者さんに対応するため、本当は病院を離れられない立場ですが、医師不足のため、着任10年で今年初めて乗船しました。それほど、医療は逼迫(ひっぱく)しています」
■定期的、継続的に島へ赴くことで 疾患の早期発見、早期治療につなげる
交通、生活環境、福祉、そして医療の分野で、離島は本土に比べ、サービスの不足が深刻だ。この影響もあって若者の流出に拍車がかかり、高齢化は著しい。2015年度国勢調査で、離島振興対策実施地域の離島254島の「高齢化率(住民に占める65歳以上の割合)」は39%だった。過疎地域の33%より高く、全国平均の27%とは12ポイントも開きがある。なお、43年後の2065年には全国平均が38・4%に到達すると推計されている。