■ふるさとに貢献したい 4人の医師の思い
7月の嘉島の2次検診を担当した医師のうち、4人が愛媛県の出身で、県内の済生会病院に勤務し、地域の医療に貢献している。済生丸への乗船は今年が初めてだ。研修医1年目の村上医師は、嘉島の印象をこう話す。
「船が港に着いた瞬間から、島民の皆さんが歓迎ムードで驚きました。これは、これまで済生丸が島に行き続けてきたことが、医療の不足する嘉島の住民の健康維持に貢献してきた、その表れだと思います」
同じく研修医1年目の水谷医師も「診療が終わった後の『ありがとう』の言葉と笑顔がうれしかった」と言う。
両医師は、金子医師と菊池医師の診療に同席して見学し、菊池医師の指導のもと、実際に島民の問診も経験した。そのなかで両医師は、所属している済生会今治病院(今治市は愛媛県で松山市に次ぐ第2の都市)との医療格差を実感していた。
「島でできる検査は限られています。問診で異常を見つけられるよう、『身体診察』の重要性を痛感しました」(水谷医師)
菊池医師は、呼吸器内科が専門。県内の複数の中核病院で経験を積んできた。医師になって今年で6年目だ。
「地方の病院は、医師一人が診る患者さんの数が多く、非専門領域の勉強も必要。内科の全身管理ができないといけません。一方で患者さんをしっかり診られるのが魅力です」
嘉島での診療についてはこう話す。
「検診に来られるのは自覚症状がない人が大半で、皆さん初めて会う人です。病歴などの情報は乏しいですが、見落としてはいけない身体所見に注意しながら診察にあたりました。設備と時間は限られていますが、少しでも早く異常を見つけられたら」
金子医師は大学卒業後すぐに上京。ERから救命救急センターまでを有する広域基幹病院の東京都立墨東病院で10年間、心臓や末梢(まっしょう)動脈のカテーテル治療(PCI、PPI)の研鑽(けんさん)を積み、2011年に故郷に戻った。
「学生時代から、全国で通用するレベルの知識や技術を身につけて、地元に戻ろうと思っていました。愛媛県でも松山市を除くと、住民(患者)数に比べて医療資源が乏しく、医療過疎の問題は深刻です。自分の技術で救える命、QOL(生活の質)の向上があるなら、その環境をつくり、持続可能な方法を探っていく、その思いで取り組んでいます。医師を目指す人は、まずは核となる専門分野の知識と技術をしっかり習得して、自信を持って医療に携わっていってほしいですね」
(文・岡野彩子)
※週刊朝日ムック『医学部に入る2023』より