ソニー・ホンダモビリティの川西泉社長兼COO(撮影/米倉昭仁)
ソニー・ホンダモビリティの川西泉社長兼COO(撮影/米倉昭仁)

 1972年、ソニーは64画素のセンサーの試作に成功し、ソニーの頭文字である「S」の撮影を成し遂げた。

 その開発拠点が「ソニー厚木テクノロジーセンター」(神奈川県厚木市)である。以前、筆者が取材に訪れた際、案内をしてくれた社員にこう言われたのを覚えている。

「ここはソニーのB面ですよ」

 華やかな家電製品やエンターテインメントの部門を「ソニーのA面」とするならば、ここはそれを支える研究所だということを示す言葉だ。

 会議室で出迎えてくれたイメージ・センサー事業部副事業部長(当時)の福島範之さんは、こう語った。

「ソニーは映像分野で長くやってきた会社なので、人材の層に厚みがあります。何か壁にぶつかったとき、それを乗り越える方法を社内で探してみると、誰かが研究をしている。そういう強みを持っています」

 印象に残ったのは研究への没入を意味する「潜る」という隠語だ。ここには、いつ日の目を見るか知れぬ研究の海に潜り続ける人々が大勢いるという。

 そして、こうぽつり。

「潜ったまま、一度も浮上できずに研究者人生を終える人も少なくありません」

第二のテスラになれるか

 実用化にこぎつけた研究の一つに「裏面照射型撮像素子」がある。これはどんな場所でも鮮明に映るセンサーで、その原理は40年以上前から知られていたが、実用化は非常に難しく、ソニーの社内でも「絶対に無理だ」という声のほうが圧倒的に多かった。それが製品化され、いまでは運転支援用センサーとして多くの車に採用されている。

 であれば、市販されているセンサーを取り付ければ目的を達せられるのでは、と思うだろう。

 ところが、あるレベルまでの運転支援は可能だが、それ以上になると、センサーからの情報を処理するノウハウが壁となり、先の川西氏も「将来の自動運転の出来不出来に関わってくる」と話す。

 その点、ソニーの情報処理技術は家庭用ビデオカメラなどで長年鍛えられてきた。

 家庭用だから簡単なのでは、と思うかもしれないが、実際は逆だ。

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テスラはエンジン車を作った経験がない